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戯言シリーズ・二次(中・長編)
戯言王国記7(ひといず)
戯言王国記7







「何で、こんなことになったんでしょうね・・・」

双識の死後、その遺体の処理をして舞織は呆然とした表情で呟いた。
服についた血を落とす気力さえ湧いてこない。
復讐したいと思うが、相手の名前さえ分からないのだからどうしようもない。
双識の死んだ後に零崎曲識の経営する喫茶店へ行ったが、店のドアは硬く閉じられていた。
零崎軋識とは連絡が取れない。
元々零崎一家は別々に好きな風に過ごしており、あんな風に全員で集まる事態が実は凄く珍しかったのだ。
舞織も元々はいろいろな所を旅していただけだったし。
ひょんな事から双識に見つかって、あれよあれよと言う間に王家関係者にされてしまっていた。その後にすぐ零の国は崩壊。
お兄ちゃんには何回も何度も謝られましたよね・・・。
そんな思い出に浸りながら舞織は考える。
もう先のことは考えていたくなかった。
今自分に残っているのは、双識お気に入りの武器、≪自殺志願≫(マインドレンデル)のみだ。

「人識君なら、連絡は取れますかね…って、今はコンタクトを取っちゃいけないんでしたっけ」

誰も聞いていないが、どうせここには舞織しかいない。
どうにでもなれ、とブツブツ色々と呟いていたが、ふと森を移動する気配があることに気付いた。
ここは誰も立ち入って来ない深い暗い森の深層部だ。人が来る事自体ほとんど無いのに、これはおかしい。舞織は兄の死に何か関係している者かもしれない、とそんなことをぼんやり考えてふらりと立ち上がる。理性ではあまり考えていなかった。ただなんとなく立ち上がって気配のしたほうへゆっくりと移動した。
そして彼女はその先で呼吸をする。
そこで彼女は『匂の国』の下につく小国家、もはや国名というより地域名と化してしまった『早蕨』の最後の生き残り、早蕨刃渡と薙真を兄の仇として討ち取り、その代価として両の手首を失うこととなる。



―ーー――――――――――――――――――――――――――――――――――――――






「はあ、はあ、、はぁ・……。ここまでくりゃあもう大丈夫だろ。あ、…大丈夫k(…!)だ、大丈夫ですか?お怪我はありませんか?失礼しました、逃げることだけを考えていたもので」
「え?あ・・・大丈夫です。ありがとうございます」

ぺこり、と頭を下げる王女。驚いた事にこの王女、俺でさえ少し息が切れたのに彼女は全く切れていないらしかった。
ここは城の下に広がる大きな森。昼間は普通に通り抜けられるし道も分かりやすいのだが、夜になると街灯が無い事も手伝って何らかの修行をしなければ見えないほどまで真っ暗になってしまう場所だ。
普通お姫様ってのはこういう一般的に「怖い」と言われる場所に来ると、つまり自分の感覚が効かなくなる場所に来ると途端に震えだしたり怖がったり怯えたりするはずなのだが、彼女には全く無い。
まあ、お姫様だけに問わず普通なら大抵はそうなのかもしれないが、そうだとすればそれはそれで不審点が増える。

「えっと…これからどうしましょうか?できれば城へ戻って、」
「うーん…いくら最強が向かったって言ったってあそこは危ない事に変わりはないはずですが」
「あ・・・…でも、こんな暗いところで男の方と二人きりというのは貴女にとって良いことではないと思うのですが…」
「…(チッ、どうにか作戦を考えないと…)」

きょろきょろしてるのに強がっているんだろうか…。
人識は、出夢がを壱の国の王子だと認識して最悪でも関係だけでも作ってしまおうかと物騒な事を考えている事を知らない。

しかし、ここで事態が変化を起こす。



ガサリ。


「「っ!」」

ここは森の奥深く。当然、夜になると動き出す肉食動物がいてもおかしくは無い。
あの王様は良く理解できないので、水辺に南極のペンギンがいて林の中に北極の白熊がおり、トラとパンダが仲良しこよししていたところで不思議は無いような天の庭と化している。
とどのつまり、それの所為でどんな動物が出てこようとおかしくないのである。

のっそりと姿を表したのは大蛇だった。しかも超巨大。
太さは大きい所で直径一メートル前後、長さは尾の方が見えないので分からない。
顔の部分が真っ直ぐにこっちを見ていることからかろうじて蛇と分かるぐらいで、実際胴体のみを見せられたとしてもそれがはっきりと分かる事は無いだろう。それほど大きな蛇だった。


「何でこんなのがこんな所に…」

出夢が呟くが、人識にそれは聞こえていない。

「(蛇は素早い。あっちが動く前にこっちが動かないとやられちまう…!)」
「(どうする!?こいつの戦う場合は先手必勝法しかねぇんだぞ、ぎゃはっ!かといって動いて正体がバレルのもなんだし!)」

必死に姫を護りながら逃げる方法を探していた人識だったが、大蛇が行動を起こす0.数秒前に自分の隣で何かが動いたのを感じた。
それと同時に、今まで隣に突っ立っていた姫が居ないことにも気が付く。
もしやあの蛇に食われたのではないかと嫌な予感がしてふっと蛇のほうへ視線を向ける。

「(…!)」

しかし、何も心配する事は無かった。
蛇は消えていた。
否、消えたのではない。退散したようだった。
先ほどまで大蛇がいたところには金属っぽい匂いのする液が滴っている。
血だ。
そして、その液の数歩分こちら側にいる人間といえば。
こんなことを成し遂げてしまった人間はどんな奴なのかといえば。

「あの…姫様、ですよね?」

黒く長い髪に手足の長い女、正しく城内にいたことが鮮明に思い出せる。
その特徴的な少女は、呆然とした表情で立ち竦んでいる。
表情的には「やっちゃった」という感じである。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

長い沈黙が続く。


(やっちゃったやっちゃった体が危機に反応して思わず動いちまった!バレたよなこれ絶対!どうする、今までバレそうになったことなんて一度も無かったのに…あ、武術を習っている姫様ってのはどうだ…それを普段隠しているお姫様、みたいな。漫画みたいだけどない話じゃないだ…って、普段からこんな状況にいないとあの蛇の対処法何ざ知ってるわけねぇよな、あ、でも素早く動かなきゃいけないって言う事を知らないのなら突破口は…んー、自分の庭に住む動物ぐらい熟知してるよな、無理だ!)

蛇がこちらに飛び掛ろうとする寸前で、出夢は人識の隣から飛び出して蛇の頭に踵落しを食らわせていた。この威力、半端ではなかったらしく蛇はその一撃で口から血を大量に吐いた。
今までそんな経験は無かったらしい。自分より強い者がいることに恐れをなしたのか、その後すぐに長い身体をくねらせて森の奥へ姿を消した。
まあそれは別に良かったのだが。
表情には決して出していないが、かなり心の中では焦っていた出夢だった。
この間も微妙な沈黙は続く。
普段頭で考える事は苦手分野なのだが、この役割についてから始めての未曾有の大ピンチである。必死で言い訳ならぬこの場の切り抜け方を考えていた。
もう関係云々の話ではない。自分が影武者だとバレた時点で自分はアウト。最悪の場合で理澄まで連帯責任でアウトになってしまうことになるかもしれない。
当たり前だ、双子だから影武者が成立するのであって、片方がいなくなったら似た者を一から探すよりも新たな双子を持ってきたほうが速い。
あの人にとっての姫の価値なんて知れたものではないから。
出夢自身は気がついていないが、目が空中を彷徨っている。

「う、うぅ・・・」
「えーっと…もしかして、その…」
「…」
「……影武者兼護衛係とかですか」

その言葉を人識が呟いた瞬間、少女の纏っていた気配が180度変わった。
先ほどとは比べ物にならない、先ほどの狙撃者なんかとは比べ物にならない程の殺気。
それを感じた瞬間、人識は反射的に数歩後ろへ下がった。
それは結果的に良かったのかもしれない。
なぜなら。
先ほどまで人識がいたところを中心に30cmほどの深さの穴がクモの巣状に出来ていた。
思わず息を呑む。凄まじい威力だった。もうもうと立つ土煙がやっと晴れたとき、初めて人識はその地面がこの目の前に立つ少女の手のひらによって生み出されたものであるという事を理解した。
しかし、こちらをひたと見つてくるその目はどんな感情を浮かべているのか分からない。
もう一度。
少女の手のひらがこちらに向かって振り下ろされる。それをまた絶妙のタイミングで体を引いてかわす。そしてまた地面に穴があいた。今回はさっきのよりも大きい。
少女がのそり、と立ち上がって態勢を立て直す。その表情は次こそは必ず殺す、と言外に告げているかのようだった。

(冗談じゃねぇ…)

人識はまた飛び掛ってきた少女の方へ今度は自分から踏み出す。
虚を突かれたような表情を浮かべる少女に向けて、一閃。全身に忍ばせているナイフの一本を振りかぶった。その動きに反応して少女が身を捩じらす。
この実力ならどうにかかわすだろうと踏んでいた人識はそのまま少女にボディアタック。
少女は人識諸共、後ろへ派手に倒れこんだ。

「・…」
「あ、あのー…」
「うぅ…うぁぁ…ひくっ・……あ、ああぁ…い、嫌ぁ…」
「ちょ、落ち着いてくださいって!」
「ひ、はぁ、はぁ、はぁ…」
「おい、落ち着け!大丈夫か!」

明らかに様子がおかしくなった。
やはりこの少女は影武者なのだろう。それを知られて…って、この状況はまずいような。
誰かが来る事はないだろうが、こんな所を見られたら終わりだ。いろいろ終わる。
慌ててこの体勢を直そうとした人識だったが、どうも自分の下で横たわる少女の様子がおかしい。

目の焦点が合っていない。
それに加えて、ありえないほどの呼吸の速さ。
まさか。





「過呼吸か!」

そう叫んで人識は辺りを見回す。
さすが人の手を借りぬ森、紙袋やビニール袋などは全く落ちていない。

「チッ!……怒んなよ」

返事はないが、人識はそのまま少女の口を自分の口で塞いで大きく呼吸を始める。


スー…ハ―…スー・・・ハー・・・
ふぅ、はっ、
スー…ハ―…スー・・・ハー・・・


過呼吸は呼吸中枢が過剰に刺激され呼吸が多くなりすぎるために血液中の二酸化炭素が減り、更に呼吸が乱れて起こる。
そのため、過呼吸の人への対処は紙袋などでその人の口の周りの空気を隔離。
自らの出した二酸化炭素をまた吸わせたりするのだが。

どのくらい続けていただろうか。
落ち着いてきたか…?と人識が思いそのまま顔を上げる。
目の前の少女の呼吸はまだ乱れてはいるが、普通の範囲内だ。
ほっとしつつ少女の上から下りる。
やがて目の焦点が合い落ち着きを取り戻した少女はぼんやりとこう言った。

「どうする気だ、このこと」
「……」
「言うのか?言って、僕を殺すか?」
彼女の目が、今にも泣きだしそうだった。
「…その前に一つ聞くぞ」
「何だよ」
「お前、…影武者、なのか…?」
「・…あーあ、そうそう、僕は影武者さ。理澄の影武者やってる出夢だよ、ぎゃははは!もう僕は御終いだけどな!ぎゃはははは!」
「…そうか」
「んだよ、別に嘘じゃねぇぜ?」
「そっか。別に疑ってたわけじゃねぇよ。俺の名前は汀目俊希」
「ん?…その名前のどこに『いー』が入るんだ?『みーちゃん』から伸ばしすぎて『いーちゃん』?」
「否、ちげーよ。…俺も影武者なんだよ」
「…………………………はぁ!?」
「お前は明かしたのに俺も明かさないなんておかしいだろ、だから教えた」
「え、え。か、影武者……はぁ、…何だ、そ、そうだったのかよ…。教える理由にびっくりだけど。」
「そういうことだ、別に二人だけなんだし好きに振舞ってもらっても構わねぇぜ?」
「…………そーか?んじゃあっ!」
「え?おい、ちょ……」


その後、俺は出夢がとんでもない人格、少女の体に少年の精神を持ち、それでいて強い事と双子である事から幼い頃に王家に引き取られた事を聞いた。
まあそれ以前に、出夢のありえねぇぐれーのハイテンション+キス魔ぶりには吃驚したけど。
こいつ精神男じゃなかったのか。キャラは大切にしろよ。
出夢いわく俺を気に入ったらしい。二人で影武者の事情を喋りあった。
出夢は物心ついた時から影武者をやっていたらしく、そのことも含めて今までの鬱憤を晴らすが如く爆発というか…はっちゃけていた。楽しそうだった。生き生きしていた。
人の暖かさに慣れてないのかやたらくっ付いていたのは割愛。

それでも話は尽きそうになかったが、ふっと空を見上げると山の淵が僅かに白んできていた。
パーティーは夜通し行われるらしいが、もうそろそろ帰らなければそろそろヤバい。

名残惜しそうな顔をする出夢を引き剥がし説得し、城への道を歩く。
その途中、出夢が真剣な顔をして話し出す。

「なあとっしー、」
「何だ?」
「……関係持った、ってことにしてくれねぇ?」

ブッ

思わず吹き出した。

「おいおい、それは流石に無理だろ。ってか俺は壱の国の王子やってるし、そんな事実作るわけにはいかねぇんだよ」
「だよな、ごめんごめん」
「それにお前の父親だって怒り狂うだろ」
「そんなもんかねー」
「そーゆーもんだろ、普通」
「そーだな、普通はそうだよな(ま、父さんの事話してないし仕方ねぇか。こいつにもこいつの事情がありそうだし)」

お互い、相手の事情に深くは突っ込んでいないし、自分の属している国について語っていたわけではない。あくまで、一般常識として広まっている内容や影武者としてのことで話せる範囲まで。お互いが自分の立場を忘れれば、それだけで全てが危うくなる。
まだ、お互いにお互いの綺麗な所しか読み取っていない。
それでも。影武者として生きてきた出夢にとって楽しい時間を過ごせたし、人識も無理に取り繕うのをやめるのは久しぶりだった。
そしてこれからも彼らは、影武者を続けていく。

「ではお城へ帰りましょうプリンセス。皆様方がお待ちでしょうから」
「ではエスコートをお願いするんだねっ!」

お互いにしか見えないように悪戯っぽい笑みを浮かべ、二人は城へ帰っていった。
当たり前のように続いていたパーティーに苦笑しながらも、立場を守りつつ楽しむ彼らはまだ知りはしない。
どの国だろうと暗黒面をもち、それがいつでも鬩(セメギ)ぎあっていることを。





***

対処法は今現在この方法はそんなにオススメできないとか最も有効だとかいろんな意見があるみたいです。
…否、ネタにするしかないじゃん!!こんなの!!


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