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戯言シリーズ・二次(中・長編)
戯言王国記6(ひといず)


不思議な、というかあまり良くない意味で目立つ女だった。
周りの女達は皆、明るい笑顔で周りに愛想を振り撒いているのに対し(俺にはそう見えた)、そいつは壁の方で途方にくれているようだった。周りの王子がちらちらと様子を伺っているようだったが、そんな視線はものともしない。というか多分気付いてない。
何故なのかは知らないが、酷く居心地の悪そうな顔をしている。

(俺にくっついてこないって事は壱の国を狙わない国の姫様ってとこか・・・?)

一瞬そうとも思ったが、忙しすぎてほとんど顔を出さない第一継承者と、婚約者がいると囁かれている第二継承者を抱える玖の国。
それと秘密事項が多くあまり外交に友好的ではないと囁かれる匂の国以外での強国といわれればどうしても壱の国が上がってきてしまう。

(って事は・・・んー?どういう事だ?)

と、言ってもこの謎はすぐに解かれることとなるが。
意を決したようにそいつがこちらに向かって歩いてくる。
それに気付いた the 取り巻き's が、ガバッと道を作った。
否、散り散りに去ってゆく。
中には「ではまた後で」「失礼します」とか行って去っていく奴もいたけど、俺が返事を何か言う前にさっさと踵を返していってしまった。
反応からすると、強国の一つか?

俺の前に来てそいつが挨拶する。お辞儀はしないが。

「初めましてなんだねっ。挨拶するのが遅れちゃった!匂の国第一継承者、匂宮理澄ですっ!以後お見知りおきをなんだねっ!」
「いえいえ、こちらこそよろしくお願いします。壱の国第一継承者、いーと呼ばれております」

誰だ、こんなセリフを抜かすのは。俺か。
こんなツッコミをするのはパーティーが始まって以来ずっとだったが、これほど「いー」と名乗ることが…否、呼ばれていると伝えるのが気恥ずかしいとは思わなかった。もう嫌だ、こんな役。

「・・・」
「・・・」

会話が続かねぇ。どんな話題を振るべきか・・・否、俺にはそんな義務はないんだが。
まあ、匂の国の姫様だったのか。そう言われればさっきの姫達の反応にも納得がいく。匂の国の関係者にはあまり関わりたくないというのが本音だろう。匂の国と壱の国なら強大さは匂の国のほうだが、より外交に友好的である、または交流しやすいのは壱の国のほうだ。下手に刺激するのは好ましくない、というのが妥当な考えなんだろう。

にしてもこの王女、それっぽくねぇ。
本当に王女か?いや、そうなんだろうけど。
まあこれよりもそれっぽくない王様がこっちにはいるんだが、その王様は絶賛他国の女王様'sに取り囲まれ中だ。可哀想に(笑)
と、ここで。
俺が放浪生活の中で身に付けた第六感が危険を告げた。


***


壱の国の王子と関係を持て、というのが今回の父さんからの指令・・・否、命令だった。
別に父さんには逆らおうと思えば逆らえるんだけど、理澄は無理だし理澄は可愛がってもらってる方だし。それでいて僕が理澄の影武者として危険を担当すれば、理澄は幸せだ。

王家集結パーティー。絶好の機会だった。匂の国は強国だ。玖の国は今回、非公開に壱の国と友好を深めるという事で父さんは不機嫌だったけど、玖の国がいないことで匂の国と壱の国の王家関係者の間に割り込んでくるような奴がいるとは思えないから僕的には良かったと思っていた。父さんには絶対に秘密だけど。
でも逆に見れば失敗すれば父さんに殴られるリスクを負うわけで。
僕が殴られるのは別に構わないけど理澄が泣いちゃうしな。

とりあえず挨拶を、と僕は理澄の代わりにもう何度目か分からないぐらい繰り返してきたシュミレーションのとおりに、他の国の王女に囲まれている壱の国の王子のほうに足を向けた。
染めたようにきっちりとしている黒い髪に(あとで出夢は本当に染めているのだと知る事になる)遠目から見たところ伏せ目がちでよく見えなかった赤い目が見えた。怪我をしたのかそうでないのか、右の頬には大きなガーゼが張ってある。そのせいで顔のほぼ半分が隠れてしまっているといってもいい。
せっかく小柄で可愛い印象を受けるのにそんなに顔を隠すのかと少し思ったが、これは友好を深める会話ではなく外交に関しても少し関わっているのだと思い出してまた歩みを進める。
取り巻きの姫様方が僕に気付いて慌てて離れていく。何か言ってから去る姫もいたけど、僕は今日は壱の国の王子から離れる気はないので意味は無いと伝えてやりたい。

で、目的の挨拶。

「初めましてなんだねっ。挨拶するのが遅れちゃった!匂の国第一継承者、匂宮理澄ですっ!以後お見知りおきをなんだねっ!」

理澄になりきって。理澄になって。理澄の声で。理澄のような明るさで。理澄のような口調で。
出夢を放棄して。出夢を捨て。出夢と同じ声で。出夢のテンションを抑えて。出夢ではない口調で。
僕は、何百、何千回と繰り返してきた戯言をはいた。

「いえいえ、こちらこそよろしくお願いします。壱の国第一継承者、いーと呼ばれております」

見た目と違って・・・違うな、見た目はもの凄く真面目で礼儀正しいように見えるから見た目通りでいいんだけど。
そうだな、雰囲気か。壱の国の王子・・・いー、って名乗ったっけ。こいつの雰囲気が真面目じゃなさそうに見えたんだけどな、気のせいだったか。
まあこいつなら理澄も大丈夫って言って普通に過ごせるかもしれない、と僕はそう結論付けた。

「・・・」
「・・・」

参った、僕お喋りは苦手なんだ。昔から感情とか行動は直結型だったからな。直さないといけないんだけど。小さい頃の癖とかはなかなか治ってくれるもんじゃない。

だけどここで、僕が訓練の中で培ってきた本能が危険を知らせる。
この感覚は・・・。


***



パァァンッッッ



「危ねぇっ!」
「・・・っ!」

ほぼ同時の出来事。
俺は匂宮理澄を突き飛ばす。
そして二人ともバランスを崩しそうになったが、何とかこらえた。
そのまま連弾が。


パンッ、パンパンパパパパパパバババババンンッッ。


狙われてるのは明らかにこの匂宮理澄か俺だろう。
俺は王女さんの手を取って走り出した。
王様の隣をすり抜ける。

「とりあえず言われてた場所にいってるぜ、王様」
「ああ、分かった。さっき最強が猛ダッシュしていったからもうすぐ収まるだろう」

俺は後から知ることになるが、銃声がした瞬間に請負人は着ていたドレスを脱ぎ捨てて下に着ていた真っ赤なスーツと共に会場を飛び出していったらしい。
むしろ射撃者に同情する。

まあ、そんな会話を国王さんの隣を走り抜ける数秒間で交わした後、『匂の国』の王女の手を掴んだまま俺は森へ走る。
ちらりと視界の隅に見えた匂の国の王様が、薄く微笑んでいたのは絶対に気のせいだろう。


*****

おそらく、次がひといず最高潮、かな?
書き溜めがもうありません。

・・・・?

=、更新速度がイソギンチャクになるよ、ってことです。







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あきゅろす。
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