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戯言シリーズ・二次(中・長編)
戯言王国記3(ひといず)





影武者として働くようになってから数か月が過ぎ、少しずつ仕事に慣れてきた人識だった、のだが・・・


「さて、ではそろそろ王家集結パーティーの季節だな。汀目くん、よろしく頼むよ」

「できるわけねーだろうがっ!」


この王様の無茶振りには困らされていた。





欠陥製品の代わりに城の周りの散歩をしたり。
(これはまあ普通にできる範囲だ。元気にしている所を見せる方がいいんだとか)

欠陥製品の代わりに壱の国の国民への顔見せの式典に出席したり。
(貰った台本通りに喋る・馬車によって大通りのパレードを国民の視線を浴びながら行進する、だけだったし、これも未だ分かる。なんだか変態兄貴の視線を感じたりした気がするが、遠い記憶だ)






ただし、だ。

欠陥製品の代わりに『狐の国』のドクターと面会させられそうになったり。
(嫌な予感を今までで一番強く感じたので縋り付いてお断りした。すごく不思議そうな顔をしていたが気にしていられなかった)

一日王様を変わってくれと頼まれたり。
(疲れたから国をゆっくり見たいとか言い出した。これはもうお茶目とかいうレベルじゃない)

何だか退屈だから女装してとバカ親子に頼まれたり。
(今でも理由が分からない。似合いそうって何だ、理由じゃないし影武者と関係ない。俺に似合うんだったらお前にも似合うってことなんだぞ欠陥製品!それでもいいのか、ってか仕事しろ!)


完全に面白がっているであろうという様なことを言われたような気もしたがとりあえず、数か月が過ぎた。







ちなみに王家集結パーティ―とは最高に豪華なパーティーで、ほとんど全ての国の王や王子、王女・王妃達が集まる。

「大体、何で欠陥製品の奴はそういうのに参加しようとしねぇんだよ?」

病弱なわけではないみたいだし?
俺は軽くため息を吐きながらそう言った。
だってそうだろ?
たまに会うあいつは別に何をしているわけでもなく、あの部屋に引きこもっているだけだ。

「・・・無為式っていうんだよ、あの子は」

は?
まあ、いーもそれを理解したのか自分から引き篭もるって言い出したし…散々そんなのしなくて良いって言ったのにね、とか何とかブツブツと国王さんは付け足してから、

「存在するだけで周りを狂わす。それが無為式だよ、全てを無為にしてしまう公式。いーの体質というか、性質みたいなものかな?」

と説明した。

ふぅん。
・・・・・・ん?否、そんな奴王子になっちゃ駄目だろう。国の政治が一発で狂っちまう。
そんな俺の心中を察したらしい。

「そういえば言ってなかったっけな、汀目くんには。実はあの子は私の本当の息子じゃないんだ」
「はぁ?」

いやいや、簡単に仰いますが、えぇー…。
何そんなに軽く言っちゃってるんですか?
おはよう、くらい軽いじゃないですか。
……ちょっと敬語になっちまった。

「私に妻はいないだろう?」

そういう問題じゃないだろう。
じゃあなんであいつは王子なんだ。

「聞きたいかい?」

悪戯っぽく王様は頬笑む。
まあ確かに奥さんと思えるような人に会ったこともないし、見たこともないし聞いたこともないし、ましてこの人は女遊びが好きそうには見えない。
というか毎日のように仕事をしている。その合間に、というかその仕事をしながら俺と喋っているようなものだから、出掛けていないはずだ。とりあえず最近は。
「王様が脱走しないようにお願いしますね!」と、いつぞやの兵士みたいな奴にそんなことを頼まれたりしたし。(前に何度か実際にやったことがあるらしい。まさか前に俺に頼んだ事を経験済みだったとはな…。なんつー王様だ。常識外れにもほどがある)

「あんまり大声で言えるようなことじゃないんだけどね…」

なら言うなよ、みたいな俺の心の声は届くことなく国王は勝手に話を進めていく。
くそ、この王様と話してるとどんどんこの国や外国の事情に首を突っ込む羽目になる。
・・・何でこんなに色々と教えてくれるのかと聞いてみたら、

「え?ああ、簡単な話だよ。こんな大きな秘密を知っていたら君は裏切りにくくなるだろう?もし裏切ったとしても国家秘密を知る者としてすぐ始末できるし。」

と言ってにっこり微笑まれた。
…くそ、この王様、変なところでできる奴なんだよな。
ったく、俺のお人好しがっ!
と、まあこんな感じで最近ではすっかり王様の話し相手と化している俺。
まあそんなに大量に影武者としての仕事がある訳でもなく、給料も恐ろしいぐらい高額な金額だったので甘んじて受け入れてるっちゃ受け入れているんだが・・・。

「いや、王家集結パーティ―なんて影武者が言っちゃ駄目だろ?一般市民でも知ってるぐらい有名なパーティーなんだから」
「でもなぁ…そんな所へ無為式が発動したらどうする?この国としては確かに困っちゃうんだよ」
「でもよ、今話してたそいつも、そのパーティーには来るんだろ?それに何回も言うけど俺はただの身代わりみたいなもんなんだって」

ちなみに『そいつ』ってのは今話してた『原因』のことだ。

「いや?彼女はいーと二人きりで会えるように両国で話がついてるんだ。それに言い忘れてたね、ごめんごめん。大国の王子とか王女は時折身代わりをパーティーに出す、これ常識なり〜」

あんたの俺に対する話し方から常識外れだ!
ほんとに、どんなけフレンドリーなんだよ…。
兵士っぽい奴の苦労を垣間見た気がした。
・・・ドンマイ!
と、それよりも。

「マジでか。そんな事していいのかよ?」
「いいのいいの。大体、王様には変わりが効くけど、その後継者の王子や王女は代わりが効かないからね。極端な話、国王の子供を守れば国は今の国王を守るよりも長続きするしね」

身も蓋もない話をしやがる。

「じゃ、納得も言ったところで…」
「なんだ?」
「礼儀作法だのダンスだのその他色々、頑張って覚えてね?」

いきなり早口になりやがった。というか、ちょっと待て。
ということは、だ。

「はぁ!?」
「はい、よろしくっ!玲さん〜」
「げっ!」

玲、ってのはこの王宮のメイド長みたいな、というかその通りの人。
真面目過ぎて俺は苦手だ。

「汀目くんに色々と叩き込んであげてくれ。頼んだぞ」
「分かりました」

その言葉を言うが早いが俺を引っ掴んで引き摺っていくメイド長。
体が小さいことを痛感させられるので腹が立つ。
しかもこの人の溢れ出すオーラ的なものにやられて敬語になるし。
よって、

「うぅ……。よろしくお願いします…!」

・・・地獄の始まりだ。





***


「大変そうだね、人間失格」
「お疲れ様、今日のノルマは達成したって聞いたから来てみたんだ」


「黙れ元凶ども。うぅ、身体が痛ぇ…。でも精神的ダメージの方が痛ぇ」

確かに今日の稽古的なものは達成した。やっと。
これをこれから続けて行けと?
身体が持たねぇよ!

「でも汀目くん、器用だったそうじゃないか。玲さんも初日でここまでなら腕が鳴るって微笑みながら気張ってたよ」

嘘だろ…。
あの玲さんが微笑んだとか!
悪ぃ、驚く所間違えた。
・・・初日から頑張ったのが仇となった!
腕を鳴らせてどうするんだ、俺!最悪だ!
ちなみにここは俺の部屋。やっと稽古が合わって風呂に入り、ゆっくりしようとしてた所でこの親子のご登場だ。
・・・早く俺に平穏が訪れることを信じてもいない神にひたすら祈ってやる。

「マジでてめぇは出席しねぇのかよ」
「周りの国には病弱だから人の多い所や長旅は止めといたほうが良いって言われてる王子・・・って伝えてあるんだよ。心配しなくても構わないよ、人間失格」
「そうかいそうかい。お前が視界に入るとイライラする」
「無為式の影響かもね」
「関係ねぇだろうな。きっとお前の存在以上に、俺と外見はほぼ同じ奴が王子コスしてるようにしか見えねぇのがイライラするんだろうな」
「僕はそんな風には思わないけどね。むしろ初めて会った時の君の姿を見たときの僕の心中を察して欲しいよ。どうして僕が、自分だあんな恰好をしているところ、みたいな奴を見なきゃなんないんだか。無表情だっただろうけど、全力で顔が歪むのを防いだ僕の頑張りには拍手してくれてもいいと思うよ」
「んだと!」

「…はいはい、わざわざ私の目の前で漫才を披露してくれてありがとう。じゃあ汀目くんも疲れてるだろうし、僕らはここらでお暇(いとま)するよ、おやすみ」

全く、どうやったらあんな好青年、じゃない……好中年(っていう年齢でもないだろうが)からあんな奴が生まれるのかと思ってたんだけどな。
・・・実の息子じゃなかったのか。



***

そりゃ実の息子だったら…。
うん、あの、あれだよ…うん。
名前知ってるから死んじゃうしね☆
(↑言い訳が思いつかなかった)



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あきゅろす。
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