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戯言シリーズ・二次(中・長編)
6






「話が、ある」

僕が向かった先は。

「僕をもう一度、使え。否、使ってくれ。」

もう、手段なんて構ってられるか。

「一つの条件さえ呑めば、どんな仕事だってする」

久々に自分の真下に見える足から目の前へと視線を動かす。
ここについ最近まであった温もりはもう消えた。

「だから、僕を、どうか、使ってください」

今はもう、あの温もりを護るだけでいい。

「僕は、どうなっても良いから」

そうして僕は、匂宮に復帰した。
前よりもっと、残酷な環境へ。


・・・・・・


今日の最低ラインはクリアして帰ってきた。

「アー。ブー・・・」

ちゃんと生まれくれた。生きていて、くれた。
僕の、生きる糧が。
僕と同じような、真っ黒な髪。
あいつの娘だと一目でわかるような、あいつ譲りの真っ赤な目。
ただ、その瞳はあいつとは全然違って、どんよりとも全てを吸い込むようにもなっておらず、ただ純粋さをかもし出す瞳。
この子は、表世界で生きる僕の希望。
汀目歪夢(ミギワメ ヒズム)。

きっとくる。この子が、僕の鎖として使われる日が、きっといつか。
ぼくはそのときに死んでやる。そう決めた。
だってそれは、僕の存在が歪夢の鎖となるのと同じだから。

今日はなかなかハードだった。
メンテナンスを数時間かけて肉体、精神の強化。
その後大量殺戮のシュミレーションから個人戦での動き、手や足の長さの調節(これが一番痛かった。言わなかったけど)。僕の弱さを担当する人体の製造。(しらねー。任せるわ、こんなもん)
今までのメンテナンスが楽に、天国に思えるほどの、墓森よりもこっちのほうが拷問に適しているのではないかと思うほどの苦痛。
どのくらい痛めつけたら僕が弱音を吐くのか、音を上げるのかを測っているような、そんな検査をぶっ続けで百以上受けた。

はっきり言って、今日だけでも僕の体はぼろぼろだ。
精神的にも、肉体的にも。
きっと残った零崎の二人は僕を恨んでいるだろうし、僕に対する匂宮も、匂宮に属するモノたちの僕の扱いもなかなか酷いものだから。
研究者の中には、僕の体をなかなかグロデスクな芸術品にするとか(詳しく言ったらこっちの気分が悪くなるので割愛)言っていたような気がするが、まあ、気のせいということで。
まあそのくらい、今の僕に対する風当たりは強いのだ。
はっきり言って、僕はいつ死んでもおかしくない立場。
それでも、歪夢だけは護ってみせる。
それが、あいつの遺言だから。


・・・・・・


そうして、長い年月が経った。
歪夢は中学生になった。長い髪を下ろしている歪夢は、どことなく僕のその頃を連想させる。
その頃になると僕はもう、いつにも増して死の香りを感じていた。
この子は、いつまでたっても表世界の住人だった。
僕が意欲的に働いているご褒美のつもりなのだろうか、とりあえず約束は護られている。
『汀目歪夢には絶対に手を出さない』という、約束は。

僕の体はもう、限界がきているはずだ。
体は自分よりも研究者共のほうが断然詳しいはずだし、電極に接続させればどんな精神状態も思いのまま。自分の体の自由なんて皆無に等しい。
そして、それで。
結果僕の人生は幸せといえただろう。
僕は、歪夢のために死ねた。
歪夢に手を出そうとした、石凪の奴らと戦って。相打ちだ。刺し違えて殺した。果たして歪夢の死相を変えられたんだろうかは知らないが、前にこいつらの殺害依頼も来ていたから歪夢に火の粉が降りかかることは無いだろう。
僕はそれなりに、幸せな人生だったと思う。
人生の後半部分は波乱に満ちたものだったけど、今までで一番充実していたと思う。
楽しかった。幸せだった。
最後に願いを残すならばどうか。


歪夢が幸せに生きられますように。



さようなら、歪夢。
そして久しぶりだね、人識。





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