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戯言シリーズ・二次(中・長編)
3

***


3.


キィ…

「んー…やっぱ、曲識にーちゃんはいねぇよな」

誰もいなくなった店内。
店の主はもういない。
零崎は、もう全滅したらしいから。

「と、いっても。まだ俺らが残ってたりするんだけどな」
「そーだな、ぎゃは…」

いつもよりも落ち着いたテンションで二人は呟く。
そうだ、彼らには一緒に放浪生活を営むものが自分達を含めて四人もいる。

「…四人だけ、なぁ」

どちらが呟いたのだろうか。
最初、もう自分達しか残っていないと知った時の出織は見ていられなかった。
そういや、俺以外では兄貴の奴と一番仲が良かったっけ。

「遺品、か。楽器をいくつかもらってくか?」
「僕、…カスタネットにしようかな」
「じゃあ俺は…別にいらねぇか。にしても、何でカスタネットなんだ?」
「…≪危険信号≫と戦った時に使った、って聞いたしな。一種の戒め?みたいなもん」
「ふーん」
「信じられねぇな…もう、四人だけ、なんて」
「かはは、まあこれが傑作、っつーもんなんだろ」

そのとき。



ガチャ


「誰だ…って、」

「「「は?」」」

そこにいたのは。

「何でお前らがここにいるんだ……っちゃ」

死んだはずの、零崎軋識。

「「………」」

「…」

俺らはお互い何も言わなかった。
出織は何か言おうとしていたみたいだが、声が寸でのところでつっかえ、それに加えて俺らが何も喋らない事も加えて躊躇っていたようだった。
俺たちは、つまり零崎人識と零崎軋識は言葉を交わさなかった。
元より零崎は家賊同士でつるむようなモノではないし、「零崎は全滅した」という話が流れており、それを大将がまだ生きているということを明かさなかったということで、大将は…否、もう彼はこの世界から身を引いたのかもしれないので大将とは呼ばない、そう、彼は零崎などという物騒なモノから身を引き、かつての自分のように表世界で何食わぬ顔をして生活しているのかもしれないし、裏での力を表でも発揮しているのかもしれなかったということなのだ。
なら、自分は関わるべきではないし、突っ込むべきではない。
零崎は、強制するものではないはずだ。否、これは勝手な自分の意見であるのだが。

「……」
「……」

何も話さない。彼はきっと、俺たちと同じように旧知の人物の遺品を取りに来たのだろう。
それを俺たちは追い返すような権利も無い。そんなことをすればこっちが悪党だ。
それに、付き合いは、彼のほうが長いはずだから。
多分、もし今度出会おうとも言葉を交わすことなんて無いだろうと、そう思って出織の服の袖を軽く引っ張って真横を通り過ぎようとしたのだったが。
意外なことに、向こうから話し掛けてきた。
…なんかもう、今までの俺の語りが全部台無しじゃね?

「俺にお前達と話すことを最後に許して欲しい。俺が残すのは一言だけだ。‘零崎曲識は幸せそうだった。同じように俺も。’…じゃあな、もうこれっきりだ、ガキ」
「……二言じゃねーか、おにーさん。かははっ」
「あ、ちょ…」

今度こそ出織の服を強引に引っ張って店を出る。

「おい人識!分かってんだろ、今のは、今の人は…」
「出夢」
「…っ!」
「『あいつ』は、幸せだったと言った。今も、幸せらしい。なら、別に俺らが如何こうしていいわけじゃない」
「でも…」
「零崎は、殺人鬼が組織する一賊なんだろ?『一般人』を巻き込んじゃ駄目だろーがよ。ははっ、傑作だぜ…」
「………」
「何にせよ、無事でよかったというか。気が楽になったというか。なぁ?」
「…そういうもんかね」
「そういんもんだ。最低でも、そういうことにしておかねぇと」
「そっか」
「仕方ねぇ」
「寂しいな」
「分かんねぇよ」

分かんねぇんだ。そう呟いた人識の呟きは宙へ消えていった。
彼にとっては、人間関係が続く事のほうが珍しいのだから。




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あきゅろす。
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