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戯言シリーズ・二次(中・長編)
戯言王国記1(ひといず)



俺はいつも通り、兄貴との追いかけっこを逃げ切ってこの国、つまり『壱の国』の人ごみの中を歩いていただけ・・・だったんだが。何やら兵士みたいな服装をした奴に声をかけられた。
「ちょっと君、いいですか?」
「あ?」
「そんなに警戒心いっぱいに睨まないでください。僕はこの国の城の者なんですが・・・」
「?」
「王様が君みたいな人を探しているらしいんです」
「・・・傑作だな、俺はそんな探されるような奴じゃねぇ」
「信じられないのは分かりますが・・・着いて来てください。僕が言うのもなんですが、多少の条件に目をつむれば君にとってそう悪い話でもないはずです・・・僕も詳しく知っているわけではないんですけどね」
「ふぅん・・・わかったよ」



***


通されたのは、国王の部屋だった。
俺みたいな一般人には普通、入ることもこの部屋の前まで来ることも出来ないような奥まった場所。
当たり前のように、黄金で彩られたまさしく王座、という感じの椅子に国王が座っていた。国王はまだかなり若いほうの王様に入るのではないんだろうか。見た目30歳いってないだろう。
国王は俺の顔をじっくり見て、

「おお、確かに似ているな。髪が白いのは気になるが・・・君、染めているのかい?」
「いや、地毛だよ。国王さん」

かなりフレンドリーな喋り方をする王様だった。この国はこの人が王座についてからかなり良くなったって聞いたが・・・それにしても偉そうなところがない。

「貴様っ!国王様になんて口の利き方を・・・」
一人の御付きの兵士が言いかけるが、国王はそれを目線で黙らせてから、話を続けた。
そこら辺の迫力はさすが王者、って感じだな。できる王様らしい。

「ふぅむ・・・まあいい。では髪を染めてくれるか?」
「まあそんなに困るようなことではないけどよ・・・。何のためなんだ?そもそも俺、目的聞いてないぜ?」

悪戯っぽく、というかニヤリ、といった風に笑ってやった。
ちょっと困ったような顔になった国王。面白いというか・・・本当に王様か?

「これは国家機密並みに重要なことなんでね。君がその役割を全うし、秘密を洩らさないのなら、協力してもらうと共に、話すんだが・・・」
「順序が逆だぜ、国王さん?」
「これを話して君が協力してくれないといわれたら王家にとって一大事なんだ」
「・・・」
「なんとかその順序の逆を受け入れてはもらえないだろうか」
「・・・俺はそんなにお人よしじゃないはずなんだけどな・・・まあ他にやりたいと思ってたこともねぇし。いいぜ?」
「ああ、ありがたい!では・・・と、その前に。君の名前はなんていうんだい?」

信頼はできる王様だろう。こちらが裏切らない限りは、だが。
だけど俺は・・・

「ああ、・・・汀目俊希、だよ」

零崎性では、名乗れない。





***


「では話をしようか・・・ここで」
「ここで?」

やってきたのはある小部屋の前。と言っても、あの王の間から見て、という訳なので、それほど小さいという訳ではない。

「ここは私の息子の部屋なんだが・・・」
「何でそんな所で。」
「色々訳ありなのだよ」

そういって王は俺にウインクしてきた。美形でまあかっこいい部類に入る人なんだろうが・・・少々お茶目すぎないか、この王様。


キィィ・・・

ドアを開けて中に入る。そこには・・・一人の青年が座っていた。

「いー、この子に前に話していた役割についてもらうことにした」
「・・・」

国王の声を聴いてこっちを振り向いたそいつは・・・。
まず、その眼。どんよりと濁っているその眼は、死んだ人間のような眼。
そして何より。
俺、とそっくりだった。それこそまるで鏡に映したかのように。

「ああ、確かに似てますね」
「そうだろう?汀目くん、自己紹介を」

俺はこんな奴と関わらなきゃいけないのか?

「汀目俊希だ。お前は誰よ?そっくりさん」
「僕は誰にも本名を教えない主義なんだ。今ある呼び名ではこの人、僕の父さんが呼ぶ『いー』ぐらいだよ。あ、霞丘って人に昔『戯言遣い』って呼ばれてたかな」
「へー。で?俺はお前とそっくりなことによって何をさせられようとしてるんだ?欠陥製品」

本名を誰にも教えない主義って何なんだ。
まあそんな主義ならこんなあだ名でもいいだろ。

「聞いてない?まあいいや、父さん、言ってもいいですか?」

まさかの無反応。
マジかよ。

「構わないよ」
「じゃあ言っておこうか。君にこれからしてもらうのは、僕の『影武者』だよ」
「・・・は?」





***

欠陥製品曰く、国王の息子ということで狙われることもしばしばあるらしい。ほかの国でも影武者というのがいる王子や王女はいるらしく、欠陥製品にも、と探していたところだったらしい。全く、俺もとんだ貧乏くじを引いてしまったもんだ。

「うん、並んでみてくれるかな?うーん、身長差は厚底ブーツでも履いてもらうとして・・・刺青は元には戻せないだろうし。いー、刺青入れるかい?」
「絶対嫌です」
「そっか、じゃあガーゼでもして隠すか」

この王様、今身長がどうだとか言ったか!
黙れ、毎日牛乳飲んでんだよ!とはさすがに言えず。

「ところで・・・汀目くん。命狙われるかもしれないけど、いい?」

良いわけあるか!
とも今更では言えない。

「・・・心配しなくても、戦えるぐらいの強さはあるぜ?」
「時として人を殺せるかい?」
「殺していいのか?」
「どうせ重罪人として死刑だよ」

恐ろしい事をさらっというな、この国王。

「じゃあよろしく、人間失格。」
「おい、なんで『人間失格』なんだ」
「今の話を聞いて何も変わらないやつを一般人とは言わないと思ってね」
「そんなやつ俺の知ってる奴には何人もいるぜ?」
「じゃあ君がさっき僕につけたあだ名と同じ理由で」

こいつ俺の言った理由絶対理解してねぇだろ。
・・・あぁ、戯言なのか。

「・・・あっそ。」

どうでもいいが。

「じゃあよろしく、人間失格。戯言だけどね」

あいつは勿論笑わなかったし、俺も笑わなかった。






とある国の奥まった部屋で。

「冗談も程々にしろ」

王が五人・・・否、一人というべきか。喋るのは一人、五つの身体に一つの精神を宿らす化け物のような体を持つこの国の王が、厳しい口調で言う。
言われた二人の子は、うなだれたまま動かない。

「狐の国の王との婚姻など許さない。国のためにも壱の国の王子と結婚しなさい」

でも、と言いかける拘束衣を着たこの方が反論しようとするが、もう一人の眼鏡をかけた子の方がそれを制して、小さく首を振った。

「よいな?」

その言葉に対して、二人は何も答えない。黙ったままだ。
それがさらに国王を苛立たせた。

「返事をしろ!」

その言葉と同時に拘束衣を着た子を殴りつける。
吹っ飛ぶ拘束衣の子。仕方ない、両腕の動きを極端に制限されているのだから。

「っ!・・・はい。」

その迫力に負けてか、殴られた子に対する心配からか、眼鏡の子が小さく返事をする。
それに満足したのか、はたまた興味を無くしたのか、国王はその部屋を出て行ってしまった。
全く忌々しい、何故俺がこんな部屋に来なければいけないのか、とブツブツ呟きながら。

「兄貴っ!・・・大丈夫?」
「大丈夫だ。・・・そんな顔すんなよ、理澄」
「でも・・・」
「いいんだ。それよりも・・・。本当に狐面の奴を諦めるのかよ?」
「うん。兄貴には迷惑かけたくないし、知ってるでしょ?あたしは惚れっぽいから。・・・きっと大丈夫なんだねっ!・・・早くいかなきゃまた怒られちゃうね」

そういって眼鏡の子は立ち上がった。
この部屋を出るために、だろう。だが、さっきの王のようにさっさと出て行きたいと思っているわけではない。

「そんなこと気にするな。・・・僕は理澄の影武者になった時からそんな覚悟決めてるんだから」
「ありがとう。でも、壱の国の王子がどんな人か分からないし、気楽に言った方がいいんだねっ」

拘束衣を着た子のために作られた、頑丈な鉄格子付きの簡素な部屋。
そこを出て、眼鏡の子は言う。

「あたしは大丈夫だから、気にしないでほしいんだねっ、兄貴っ!」
「悪ぃな、理澄」

薄暗い、蝋燭でさえ備え付けられていない部屋の中で拘束衣の子は呟く。

「ぎゃはっ・・・。もう幸せなんて望まない。理澄を護れるだけで良い。だから、」





***

pixivにあげていたものをここにも置いておきます。
どっちの方が更新速いか…分からん、うん。







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