戯言シリーズ・二次(短編)
通り抜ける視線(ひといず)
僕は、自分の今の状態に気付いたと同時に、絶望する。
「人識」
「人識」
「人識」
何回僕が呼んだって、人識が振り向く事はない。慣れてしまうほど、それを繰り返したから。
昔は、呼んだらすぐに気付いてくれてたのに。
後ろを見て下を見て上を見て右を見て左を見て宙を見てこっちをみてここをみて僕を見て、僕を。
そこにいるのに、向けられているのに、向けられている所へ逝くのに、そこへ立ちはだかるのに、なのに。
向けられる視線はまた、僕を通り抜けていった。
人識が見ているのは、僕の身の先で、僕自身には決して向けられなくて。
いつも僕が近付いたらすぐ気が付くくせに、何で気付かないんだよ。
分かってる。
理由も、理由の理由も、理由の理由の理由も、その理由も。
だけど、分かっているからってそれが何になるってんだ?
僕にはどうせ、何も出来ない。
つらい、誰にも認識されないで、それでいてこちらは文字通り、『何も』出来ない状態で。
どうにかしてくれ、助けてくれ。この状況を打破できるのは、人識。お前だけなんだよ。
変化させる事が出来るのは、良くも悪くもお前だけ。
だから僕が、お前の目に映ることが不可能なのなら、それはもう可能性が無い事を示しているのだろう。
ナイフを向けられて身を切られるの、ちょっと痛いけど今は体を切られるのも良いと思う。痛みでも憎しみでも何でも良い。怒っても良い、殺してくれたって構わない。
何かを感じてくれるのなら、なんでも良い。贅沢なんていわない。
すき。
大好きだった。
僕は本当にお前の事が好きらしい。好き、好き、好き好き。こんなある意味欠陥品とも言えるような僕のどこから溢れ出してくるのだろうかというほど溢れてきて、どうにかなりそうだ。
せめて夢とか、そんな現実味の無い世界だけででも、思い出してくれないだろうか。僕に夢なんかに入る事が出来るような技術は無いけど、思い出の中のその奥ぐらいには僕が存在していて欲しいと思う。
「人識。とっしー、零崎、ぜろっち、」
もうお前の口が僕の名前を紡ぐ事は無いだろうけど、僕の口がお前の名前を紡ぐ事ぐらいは許して欲しいと思う。でも、怒られない事は悲しいもんだよな。
感覚は全く無いくせに、寂しさとか、悲しさとか、そんな『感情』だけは未練がましく抱えつづけてる。
こんなことなら感情も麻痺してしまえばよかった。
そうしたら、こんなにも悩む事なんてなかった。
消える事が出来たら多分忘れられるんだ。全てを、少しずつ忘れて最後には全部忘れて、きっと楽になれる。丁度人識が僕のことを忘れていくのと同じように。
人識。本当、大好きだったんだ。
でも僕が恋情を持ったところで何になる。悲劇。そんな一言でしか表せない。
折角認めた感情なのに。
折角認めてやれた感情なのに。
今では…否、今でも、か。
所詮は、ただのお荷物だ。
だって僕は。僕は人識が好きすぎて、
「成仏、できねぇじゃねーか」
大好き大好き僕に気付いて想いを聞いて驚いて見せて笑って返してだからだから、だからこそ。
触って欲しい抱き締めて欲しい撫でて欲しい。ただただ、温もりを感じていたかった。痛かった。
一緒に起きて、一緒に食べて、それから二人でちょっと出かけて、いってらっしゃいといってきますを言い合って、二人大体同じぐらいに帰ってきて、おかえりなさいとただいまを言い合って、それでまた一緒に眠って。
そんな風な事をやってみたいと思ってた。
気付けば死んでいたんだ。
それから成仏できない事に気付いて、絶望した。
僕は見つめつづける事を強制されたのだ。
人識が笑うところを、幸せになるところを見届けないと、僕は成仏できない。
だってそれは、僕が望んだことだから。
人識と笑い会っていたい、幸せになってみたい、そんな未練。
早く成仏してしまいたい。
だけど人識が幸せそうに誰かといる所を見届けないといけないなんて。
だから僕は、僕を忘れゆく人識を見つめつづけて、涙する。
瞳さえないくせに、未練を抱えながら。
******
成仏したい→人識の幸せな所見れたらOK→そんなの見たくない→成仏したくない、のエンドレス。
しかし人識は口には出さずにただ己の中にだけ出夢との記憶を留めて置いたりするのでそれに出夢は結局気付かず二人の思いは交差しまくってだらだらと二人引き擦り続けるんでしょう。
Happy endを見つけるのが難しいお話だと思います。
出夢追悼!こんな切ないのでごめんなさい。萌太くんは時間的に無理だと思いますゴメンネ!
運動会終わる→帰ってくる→塾行く→塾終わる→何気なくtwitter見る→…出夢追悼やん今日!?がぁ!私としたことがぁっぁぁっぁ!から始まり三十分でこれを仕上げる羽目に。
一回も見直ししてないよ!ごめんなさい!
それでは、出夢、萌太くんの冥福をお祈りいたします。
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