戯言シリーズ・二次(短編)
苦いものは、(ひといず)
※学パロ、先生と生徒。
「先生のために作ったんですよー!ちゃんと苦くしておきましたから」
そう言って、調理実習で作ったカップケーキを渡される。
「おお、何か手間掛けさせたみてぇで悪ぃな」
「いえいえ!じゃあ、食べてくださいね!」
そう言って、何故か赤い顔をして走っていった俺の受け持つ生徒達。
ここは戯言学院。俺はこの学院で教師をしている。
調理実習はだいたい一学期に数回あるが、お菓子を作るのは珍しい。
きっと三年生が卒業前に好きなものを作っていい事になっているんだろう。
普通はそんなことは駄目といわれるが、大体そんなものだ。
「また貰ったのか、人間失格」
そういって偶然通りかかった戯言遣いは俺の手元を覗き込んでそう言った。
こいつは、俺の同い年で同僚だ。そっくりだが、特に接点はない。
「まあな、お前は?」
「まあ、僕も結構もらったよ」
二大トップ。
俺らがそう呼ばれるようになったのはいつからだっただろうか。
似ているので双子なのではないかという失礼な噂まで流されたのは、まだ新しい記憶だ。
と、まあそんなことはさておき。
「じゃあ別に咎めるような事でもねぇだろ、それに、お前は本命貰ってるから別に構わねぇだろ?」
「まあね」
こいつの本命は生徒のうちの一人玖渚友。保健室登校時児兼、この学院の後ろ盾財閥の後継者候補の一人。といっても玖渚のほうが戯言遣いにベタ惚れというような状態なのだが。
「それに加えて、そんなに貰ってんだろ?」
「まぁね」
「しっかし・・・」
ここで一旦話を切る俺。
それでも戯言遣いには繋がったらしい。
「『そんなに自分は甘いものが苦手に見えるのか』って?」
「そーなんだよな・・・」
貰うのは全て、『本来は甘いものを手を加えて控えめor苦くしたもの』なのだ。
実際には甘いものが大好きで苦いものが嫌いなのだ・・・が、この容姿というか何というか、不良っぽさ漂う零崎先生は苦い物がお好き、といった公式が出来てしまっているようだ。
誰だそんな公式作ったやつ、出て来い名乗り出ろ。殺して解して並べて揃えて叱ってやる。生徒指導してやる。人の好みを決め付けてはいけません、ん。
「むしろその身長を見たら甘いもの持ってきそうなのにね」
「黙れ」
まあそんな会話をした後、別れる俺と欠陥製品。
珍しくなのか分からないが、俺らが揃っているという事でチラチラこっちを見ていた女子生徒’sには申し訳ないが、俺たちには仕事がある。
・・・ただ一つ気になるのは、こっちを見ていた女子生徒の中でも何故か目立ってしまう、立派な一眼レフカメラを構えた七々見奈波という生徒なのだが。彼女に近付く時は男子二人で固まらないようにとやたら不審なことを西東理事長からいつも通りのシニカルな顔で笑われたのは最近の記憶だ。
それはさておき。
「さて、と・・・」
俺の向かうは家庭科調理室。
俺の予想が正しければ、と。
「やっぱりか」
「うっせーな」
最後の締めとしてなのか、出夢が作った菓子を箱に入れてる最中だった。
「今日の出来はどうなんだよ」
「べっつにぃ〜?」
真剣な顔をして最後にリボンをかけて出来上がり。
「で、コレは俺にくれるわけ?」
「違いますー、コレは理澄のですぅ〜」
うし、出来た。そう満足そうに呟いて背伸びをする匂宮。
「ちっ、今回はくれねぇのか・・・」
「どーせ既に10個以上は貰ってんだろ?」
「ま、言っちゃえばそーだな」
「はいはい」
呆れたように言って人識のそばを通り抜けようとした出夢。
こっちを見ようともしない。
…今回は無しか。
まあ、今回はあまりも無い見たいだし。
そう思いながら家庭科室を見渡す。出夢の使っていたテーブルだけ汚れているのが分かる。
例え掃除しても分かるほど汚れている。今回は収穫無しかね。
そう思った瞬間、出夢が人識に何かを投げつけた。
「嫌がらせに、すっごい失敗作のすっごい苦い奴作ったから絶対食べろよ!ほんとにお前物好きだよな!」
そう言って一目散に走っていく出夢。
それをポカンと見送った人識。
数秒後、意図を察する。
まさか本当にもらえると思っていなかった人識は静かに笑って包みを開けた。
嬉しい事に出夢の妹にあげるラッピングと同じラッピング。
進歩だ。
開けた袋からは、甘ったるい甘い香り。
「甘、い…?…かははっ、そういやあいつは俺の甘い物好き知ってたっけな」
それは一口で、他の人が食べたら気持ち悪くなるくらい甘かったという。
(あいつ・・・俺の好み分かってんじゃねーか)
(あんなに入れたんだから流石に気持ち悪くなってんじゃねーか?ぎゃはっ!)
まあ、思いはまだまだ交差していたりしたのだが。
***
こんなに人識が積極的なのは初めてです。
私の中では下手(シモテ)なのが人識なんですけど。んで、攻めの出夢ちゃん。
そんなひといずが好きですがこんなひといずも好きです。
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