小説
ノグチの奇跡 written by 参食堂順
今日は朝からツイている。
朝目を覚まして何気なく時計を見ると、七時七分七秒だった。
目をこすりながら台所へ行くと、大好物の目玉焼きが双子だった。
学校へ行く途中にミホちゃんと出会い、一緒に校門をくぐった。
ヤマを張っていたところが出た算数のテストは満点だった。
放課後のクラブは音ハメが気持ちいいくらいきまった。
そして帰り道、ノグチと出会った。
今日は朝から雨だったというのに、ノグチは少ししか濡れていなかった。おそらく、外に出てから余り時間が経っていないのだろう。
雨に濡れ、少し弱々しくなってはいるが、折り目正しくある姿は流石ノグチだ。
僕はノグチを見つめ、このあとの予定を組み直す。
ゲーセンへ行こう。いや、それとも映画を見に行こうか。ボウリングもいいな。お洒落な喫茶店なんてどうだろう。どのみち、ノグチを連れて行くことは決まっていた。
今日は朝からツイている。
結局、映画を見に行くことにした。小学生の僕には、千円でお釣りが来るぐらいがちょうどいいと思ったのだ。
映画館へ行く途中、ジュースを買いに商店街へ寄った。当然、ノグチも一緒だ。
わざわざ商店街へ来たのは、友達に会わないかと期待してのことだ。ノグチを連れていることを自慢したかった。特に、普段から威張っているリョウタに。
予想に反して、アーケードには余り人が居なかった。そしてその殆どが大人で、僕の求めていたクラスメートはいなかった。
つまらないと感じながら視線を彷徨わせていると、ある一点に引き寄せられた。
そこには、赤い少女がいた。
二年生くらいだろうか、真っ赤な服を着た一人の女の子が、小さなポシェットを提げて立っていた。
女の子は肩を震わせていた。笑っているのかと思い近づいてみると、直ぐに間違いに気付いた。
その子は、涙を堪えているのだった。
決して泣くまいと、健気に振る舞っているのだった。
僕はノグチを見た。
ノグチもまた、僕を見ていた。
僕は女の子を見た。
彼女は、ただポシェットを、恐らく中身が入っていないであろうポシェットを見つめていた。
「ノグチさんを笑わせる方法、知ってる?」
僕は、おつかいに行こうとする少女に渡されたのであろう、きれいに二つ折りにされた千円札に、もう一本折り目を付けて女の子に見せてやる。
七時七分七秒に時計を見て、起きたのは八時過ぎだ。
双子の目玉焼きは、焼きすぎて焦げてしまっていた。
ミホちゃんは、昨日からリョウタと付き合っている。
ヤマが外れた国語のテストは零点だった。
音ハメはきまったが、バトルには負けた。
結局、ゲーセンにもボウリングにもお洒落な喫茶店にも、映画館にも行けなかった。
けれど、赤い彼女の笑顔が見られた。
今日は、朝からツイている。
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