小説
完璧な侵入 written by参食堂順
「さすがは俺だな」
部屋へ行く道すがら、己の知恵を思い、悦に入る。
俺は、完璧な作戦を思いついた。
部屋の主に怪しまれることなく、ホテルの部屋に入る方法だ。
いかに用心深い人間でも、信用する相手がいる。フロントの人間だ。
俺は、フロントの振りをして、ターゲットの部屋に内線を繋ぐ。
そして、部屋を出るように言うのだ。
理由は何でもいい。消防設備の点検だの、配線トラブルだのといえば、大抵は中に入れてもらえる。
俺の地元、大阪では、この方法でたっぷりと稼がせてもらった。
その金を使ったこの旅でも、一儲けさせてもらうとしよう。
「302号室の、田中様でしょうか。フロントのものです。お部屋の掃除をしますので、鍵を開けておいていただけますか。いえ、席を外していただいて構いません。私共でやりますので。それでは」
日本人ってのは、ちょろいな。すぐに人を信用する。そんなだから、旅先で物を盗まれるんだぜ。
俺は、顔も知らないターゲットに、嘲笑を浮かべる。
おっと、目指す部屋に着いたみたいだ。
ドアに書かれた数字を二度確かめる。途端に高ぶる胸の鼓動を抑え、静かにノブを回した。
よし、開いている。
「それじゃあ、始めるか」
がちゃり
大きく扉を、開け放つ。
すると、黒人の制服警官と、ガッツリ目が合った。
「え?」
なんだこれは。どうして警官が?
戸惑う俺を見て、彼は笑いながら英語で言った。
「ここはアメリカだぜ、日本人」
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