[携帯モード] [URL送信]

小説
オフィスらぶ 第四話
「すまない!」

 月曜に出社した時に待ち構えていたのは、そんな言葉と、伏見さんの後頭部だった。

「先輩、おはようございます」

「ああ、おはよう。って、そうじゃなくて! 星野、ほんとうにすまない!」

 一度上げかけた頭を、猛烈な勢いで下げ直す。

「そんなに謝らないで下さい。自分にも非があったので。伏見さんには怒ってないですよ」
 
 飲み会でのことは、すでに課長から聞いていた。
 相変わらず記憶はないけれど、課長の話を聞く限り、客観的に見て自分にも非があることは明らかだろう。

「だから、先輩もあまり気に病まないでくださいよ」

「そうは言うが、一歩間違えば、取り返しのつかないことになっていたかもしれないんだ」

 それはあなたもですよ、センパイ。
 
 彼は飲み比べの後、課長の拳を何発も受けたらしい。
 
同僚は語る。課長に殴られて生きていられるのは、伏見センパイだけだと。

 しかし、このままでは話が終わりそうにないと思い、一つ提案をしてみる。

「なら、ご飯奢って下さい。それでちゃらにしましょう」

「それだけでいいのか? もっと……」

 なおも食い下がろうとするセンパイに、やんわりと拒否の意を伝える。

「約束です。必ず奢って下さいよ」

「ああ、約束だ。必ず」

 必ず、ともう一度言ったあと、伏見さんはようやく肩の力を抜いたようだった。

 やれやれ、この人は課長に負けず劣らずのまじめさなのだろう。

「そこがセンパイのいいところです」

「ん、何だって?」

 そこを真似すれば、彼のようにモテることができるだろうか。

 伏見さんは、割とおモテになるようだった。

 入社一週にして解るくらいなのだから、その人気は推して知るべし、といったところだろうか。

 ただ、惜しむらくは、彼自身がそのことに全く気付いていないということであろう。

 課長といい伏見さんといい、この課には面白い人が集まっているな。

 そんな益体も無いことを考えながら、自分のデスクへと向かう。

「さて。それじゃあ先輩、今日もお仕事頑張りましょう」

「ああ、そうだな」


[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!