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小説
ぱずけん 序 written by 参食堂順
「宗くん宗くん、大ニュースだよっ」

 読書に適した静寂と年季の入った木製の扉を、ただぶち壊さんとしているとしか
思えないような大音響を放ちながら部室に入ってきたのは、我がパズル研究会の会長様だった。

 というか、校門に書かれた秋雨高校という文字も、年月とともに掠れてしまっているくらい
老朽化が進んだこの学校でそんなに暴れると、本当に校舎が壊れてしまいかねない。

「どうしたんですか、まいすさん。まるで校庭で裸踊りでも始めそうなテンションじゃないですか」

「たとえどんなテンションであろうと裸踊りはしないよっ」

「そうなんですか? それなら、まいすさんのイメージを修正しないといけないですね」

「私今までそんなふうに思われてたの!?」

 ショックだよぅ、と言いながら、彼女は自分の定位置であるイスに、つまりは僕の対面の席に腰を降ろした。

 髪を無造作に左右で結わえたまいすさんを見つめ、改めて思う。
 
 可愛いなぁ。

 彼女が落ち着いたところで、その右手に握られている一枚の紙に目を向ける。

「ところで、その紙は何ですか?」

「そうだった! 凄いもの見つけちゃったんだよ宗くん! 見て見てっ」

 彼女は出鼻を挫かれたせいで忘れかけていた、本来の目的を思い出したようで、
机の上に身を乗り出し僕の鼻先へ手に持っていた紙を突きつけてきた。

「ちょ、近過ぎて見えないですよ。ああ、もう。貸して下さい」

 彼女の右手から紙を取り、その内容に目を通す。

「えーっと、なになに? 『17カラットのダイヤが付いたネックレスを落としてしまいました。
見つけられた方はご連絡下さい』って、ええ! 何てもの落としてるんですか、この人!」

「あ、ごめん。それは別件のチラシだった。見せたかったのはこっち」

「いや、これとても気になるんですけどっ」

「そんなものはどうでもいいんだよ! 大事なのはこっち!」

「17カラットのダイヤが、そんなもの、ですか……」

 はい、と言って手渡されたチラシには、たった一行しか文章が書かれていなかった。


「『秋を白くし明日を求めよ』」「げこげーこ」


「勝手に言葉を繋げないで下さい。僕の頭が正常かどうか疑われてしまうじゃないですか」

 僕の名誉のために一応言っておくが、先程のかえるの鳴き真似はまいすさんがしたものだ。
 おそらく、文章の隣に描かれたかえるのイラストを見ての奇行だろう。
 しかし、そのかえるの体が青く塗られているところを見ると、描いた奴は絵心がないのだろう。

 何が楽しいのか、まいすさんは「げこげーこ」「げこげーこ」と繰り返している。

 改めて思うが、彼女の学年が高校三年、つまりは僕の先輩にあたるというのは詐欺だろう。
彼女なら中学生と言っても十分に納得されると思う。

 放っておくとそのうち部室の床を飛び跳ね始めそうだったので、再び話を向けた。

「それで、この紙は何ですか?」

「分からないの、宗くん。まったく、こんなだから万年助手なんだよ」

 やれやれ、とアメリカンに肩を竦めるまいすさんに若干イラっとするも、やはり分からないのでおとなしく答えを乞う。

「万年どころか、助手になった覚えすらないのですが、教えて下さい」

「ふっふっふ、これはね……」

 そこで彼女は大きく息を吸い込むと、大きな声で叫んだ。

「パズル研究会への挑戦状だよっ!」

「ええー」

 今この人なんて言いました? パスツールの召喚状? モンスターカードとして使えるのですか?

 予想もしていなかった驚きの答えに思考が追い付かない。

「すいません、もう一度言ってもらえますか?」

「いいよ! やっぱり宗くんも何回でも聞きたいんだね。パズル研究会への挑戦状だよ!」

「却下。ボケが弱いです」

「ええー! ネタじゃないよぅ。ほんとにそうなんだから!」

 まいすさんの抗議に、しかし冷たく言い放つ。

「ありえません」

 僕の言葉に、当然まいすさんは噛み付いてきた。

「じゃあじゃあ、どうしてありえないのか、その根拠を
述べよっ」

「それは、我々パズル研究会が学校に認可されていない非公式の活動だからです」

「ああ、そういえばそうだったね……」

 まいすさんは、納得したのか、イスに座り直し上体を机の上に投げ出した。

「だれも私達の存在を知らないんだもんね。そりゃ、来るわけないかぁ」

 しまった、まいすさんのテンションがみるみる下がっている。

 何かフォローをしないと。机に身を投げ出してぐでっとしているまいすさんに慌てて声をかける。

「奇跡も魔法も、あるんだよ」

「私達の存在は最早奇跡のたぐいなの!?」

 しまった、言葉の選択間違えた。僕としては、もしかしたら本当に挑戦状かもしれませんよ、
というつもりで言ったのだが、誤解されてしまったらしい。

 まいすさんの好きなアニメネタなら喜んでもらえるかと思ったんだけどなぁ。

 だが僕は諦めない! 次はプランBで行こう。

「ピッコロに髪が生えたら、やはり緑色なのでしょうか」

「たぶん違うと思うよ! って、ちーがーうー! 今は挑戦状の話をしているのっ」

 ばんばんばん、と机を叩くまいすさんを見て、小さくガッツポーズをする。

 くっくっく。計画通り。

 DQNネームなあの方のように笑いながら、まいすさんが自ら戻した話題に乗っかる。

「しかし、挑戦状かどうかは置いておくとしても、確かにこの文章は気になりますね」

「だよねだよね! 絶対挑戦状だと思うけど、何だか暗号っぽいよね!」

「ええ。挑戦状のはずはありませんが、解読してみる価値はあるかもしれません」

 水面下で睨み合いを続けるも、流石にお互い落としどころは心得ている。

「じゃあ、もしも解読出来たら、これは挑戦状で」

「出来なければ、ただのいたずらでしょうね」

 まいすさんの瞳が、徐々に輝き始める。そして同時に満面の笑みを浮かべ、力強く宣言する。

「それじゃ、全力で楽しんじゃうよっ」



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