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企画モノ
お駄賃はオレンジジュースで。
 トリックオアトリート、これは直訳すると『悪戯かおもてなしか』という意味である。『お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ!』という意訳は、悪魔や魔女の仮装をして家々を回る子供達にとってのおもてなしを考え――ここから先ちょっと訳し難いかも。
 私は脳内での同時和訳を止め、英文を音読することだけに集中し始めた。知らない単語がなかったのが幸いだ。

 英語の先生は教科書以外のテキストをよく使う。
 行事が近くなると、その行事に関するプリントを配って一時間丸々を読解に費やすのだ。

 今日は29日だから確実に当たるのは出席番号の下一桁が9の人々。ちなみに9から39までの人のうち、誰が当てられるのかはランダム。
 第一パラグラフをつつがなく読み終えると、先生は「Ok」と短く言って出席簿を見た。
 次に視線が向けられたのは廊下側手前で、そこに座っていて9番台の人というと、

「じゃー若林、next your turn。大西が読んだとこ和訳して」

授業中にぼおっとしていたらしく、

「…………あ、ハイ」

克己らしからぬ歯切れの悪さで返事していた。

 心なしか和訳もたどたどしいし、寝てて話を聞いてなかったんじゃないかと思うくらいだ。……珍しい。
 そして克己の後ろに座る里奈ちゃんは何故か口元を手で押さえ、肩を震わせていた。
 まるで笑うのを我慢しているように見えたけど、まさか里奈ちゃんに限ってあるはずない。



「きららのとこはハロウィンどうするの?」
「どうする、って」
「デートとかしないの?」

「……するべきですか。まずお菓子を頂けるお家を探すことから始めるのって、結構大変かなあと思っているのですが」

「ぶっ。こりゃー若林が苦労するわぁ……いやそうじゃなくってね、普通のデートで良いんだって。帰りにカボチャのお菓子でも渡せば妥当だよ」

「なるほど。じゃあ里奈ちゃん、放課後にでも一緒にお菓子作りしません? 今日ならテニス部オフでしょう?」

「……あたしは良いけど、良いの? あたしがオフなら若林だってオフなんだよ」
「大丈夫ですよ。克己とはまだ今日の約束してないから」

 それはアレか、お前らは一々一々『一緒に帰ろう』とか『部活が終わるまで待ってる』とか連絡してるってことか。付き合って三ヶ月以上経つのに。
 目の裏で若林がいじけるのが見えた。……それをきららに八つ当たりしないでよ、へタレ。

 調査結果:人に調査を頼む前に、とっととハロウィンデートの約束をしてしまえ。




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