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閑話
「――ぁ」

 両目とも2.5の視力を誇る少女がまず、三車線が走る通りの向こうに白いダッフルコートの少女を見つけ出した。

 スカートはほぼコートと同じ丈で歩く度にちらちらと黒い色が見える。
 二周半ほど巻かれたマフラーもスカートと同色、ついでに言えば背中の半ばまで伸ばされた髪もまた。


「仁科の夜姫」


 構成する色は艶やかな黒と病的でない白と頬や唇の自然な赤みとその他少々、目立つほどではないが一度目を留めれば到底視線を引き剥がすことは難しい女の子。

 よって一種の確信を持って少女は呟いた。
 反応したのは残りの女子二人で、少女が言い切るか言い切らないかのうちに遠くの方を見る。

 彼女達は午後二時間程度で広報委員の活動を終え、駅に向かうところだった。

「ああっ本当ッ! 姫がいらっしゃる!」
「夏夜ちゃんだわ、でも何でここに? あの子って部活にも委員会にも入ってないよね?」

 ええ、と残り二人が頷いた。
 四月から半年経てば目ぼしい一年生の情報はクラスに部活に家業まで、全て趣味で脳内記録してある。

 仕事を趣味とするようでなければ紫苑学園の広報委員はやってられない、他生徒会役員なども然り。

 そうこうしているうちに通称・姫はどんどん近付いてくるので、彼女達は出来るだけ自然に、かつじっくりと観察を続けた。
 歩くスピードも少し落とされる。

「どう見ても私服ですものねっ。冬休みとはいえ、学校に入られるなら制服でないといけませんし!」
「忘れ物のセンは消えたね」
「彼氏とデートとか。でもそれにしては表情が暗い……」

 だったらもっとウキウキしていても良いのではないだろうか。

 いつも太陽みたいに明るいあの子には笑顔の方が似合う、と一同ほぼ同時に考えた結果、「あんな表情させる彼氏なら別れちゃえ」と思いっきり過激な発言が出てきた。

 ぎゅっと拳を握って言う後輩を宥め落ち着かせるのは年上の役目である。

「寒いから不機嫌なのかもしれないじゃない? 思い込みで言うのは止めましょう」
「……ぁう、そうですね。早とちりでした」

 しゅんとなった後輩を横目に、最初にあの子を見つけた少女はまるでホームズのように顎に手を添えて。 

「私は部活帰りの友達と待ち合わせと見た」

 二人は目を見合わせ、次いで短くあの子の姿を確認してから緩く口角を吊り上げた。

 言われてみれば服装にもそれほど力が入っていないので、待ち合わせなら彼氏よりも寧ろ友達の方がしっくりくる。

 あの子の友人で、今現在学園にいて、比較的短時間で終わる仕事か部活。
 三人は瞬時に答えをはじき出した。

「……とすると、今日ありえるのは恵さんだけですね。よおっし答え合わせ兼ねて問い詰めちゃおうっ!」

 学校指定のバッグから携帯を取り出し素早くメールを打つ。


 幸運にも、少女のうち一人は仁科夏夜の親友――メグと同じクラスだった。


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