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落ちゆく
 さくさく、ぱさり。
 ふわふわとした感触、音。

 何となく感じる、枯葉の匂い。

 私の隣を歩く彼は、ここ数日の習慣のように秋色のじゅうたんの上を選んで歩いていた。

「やんないのー? 面白いのに」

「いいの」

 午後十時。
 五時を過ぎるとすっかり日も暮れ、寒さが身にしみてくる季節。

 かくいう私も、夜だけはマフラーをつけている。
 ダッフルコートに白いマフラー、塾指定の鞄が最近の定番となりつつあった。
 手袋は流石にまだしていないけれど、この分だと近いうちに必要になりそう。

 既に手は冷え切ってしまっていた。

「人生の半分損してるよ」

 確かに、そうなのかもしれない。
 だって彼はこんなにも楽しそうに、大きなプラタナスの葉を踏んで歩いている。

 一週間に二回。
 一日十分の逢瀬も、こうしているとあっという間に過ぎていくようだった。

 あと三分もこのまま歩けば、私の家が見えてくる。
 対して彼は他愛ないお喋りを続けながら、葉っぱの上を歩くことを止めない。

 さくさく、しゃく。

 声にして表すことの出来ないそれが聞こえてくるから、彼が後ろにいると、ついてきていると分かる。

「たまには童心に戻ろうよ」

「……良いんだってば」

 どちらからともなく、別れを惜しむかのように歩くスピードが遅くなっていく。
 特に決めたわけではない、けれど暗黙のルール。

 頭を左右に振ってかたくなに拒否する私に、彼はにやり、と形容できる笑みを浮かべて。

 私の手首を掴み、ぐっと引っ張った。
 当然、重心を崩された体は彼のいる方――後ろに、倒れる。

 ……あぁ、体育でこんなことやったかもしれないな。

 なんて、やけに冷静な頭で考えた時、背中を支えられる感触。
 あたたかな両手の重み。

「っと、ごめん。へーき?」

「う、うん」

 ビデオの巻き戻しみたいに傾いた体を直される。
 あたたかさがふっと消え、彼の手が離れた。

 そして、彼は不機嫌そうに目を細め、

「てかさ、手冷たすぎ。待ってろ、これやるから」

と言って、ジャージのポケットを探り出す。

 携帯用のカイロが出てくるのに、そう時間はかからなかった。他にも飴玉とか小さいシャーペンとか、魔法のように色々。

 ひゅっとカイロが綺麗な弧を描く。

 彼の手から放たれたカイロは、無事に私の手に着地した。
 その距離、一メートルにも満たないけれど。

「いいの?」

 受け取っておいて、今更。
 でも聞かずにはいられなかった。
 それに、家はもう近いのに。

「いいの。俺の手はあったかいしねー」

 彼はひらひらと手を左右に振って、へーき、とくったくなく笑う。


 その体温、分け与えて欲しいなんて。
 今はまだ、言えない。


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