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グループ企画
スノーホワイト【3】――フラ
 キラキラと光る『キレイナユキ』は足元で積もり始めた。
 確か、私とユキが会ったのも、こんな雪の日。

 そして、ユキとアノオトコと出会ったのも、こんな雪の日だった。

 なんだか、とても不吉な気がする。

 思い出のように、キレイで汚れている雪は今度は私に何をさせようとしているのだろう。
 思えば、自分の節目節目で雪が降っていた気がする。

 白雪姫。姉が私を比喩するときによく使った言葉。どんな意味があるのだか。

 真っ白な雪。
 心も? 体も?

 だから言ったのか。姉は、私に。『あなたは白雪姫のようね』と。
 だが、姉が思っているように、真っ白じゃない。逆なんだ。どうして気付かない?

 理由はもう分かってる。それが私だから。

 大分奥まで入ってしまった。今日は帰ろう。そう思って振り返った時、アノオトコがいた。

 アノオトコ……ショウが――。

 ――ねえ。あなたは、どうしてそんなにすごいの?
 なぜ私と、そんなにも違うの?
 お母さんにも、お父さんにも愛されている。大切にされている。何だって出来る。

 とっても可愛くてキレイで。

 おじいさまにもおばあさまにだって認められている。
 なのになんで私はこんなに駄目なの? あなたは出来るのに、どうして私は出来ないの。

 どうして? なぜ? 教えてよ。
 何だって出来るんでしょう? あなたは。

 だったら答えて。
 どうして私は駄目で、あなたは良いの――?


 帰るために動こうとしていた足はそこで固まったように止まってしまった。その間も雪は降っている。

 『ショウ』は写真を撮っているようだった。

 そういえば趣味は写真だとユキから聞いた。
 沸々と湧き上がる殺意を止めるために、降る雪を見て天を仰いだ。

 神様は本当に悪戯だ。昔っからそう。
 見たくない場所や、見たくない物を簡単に見せようとする。

 アノトキだって、イマだって。
 神様なんて実際にはいないのだけれど。

 自分と彼以外に誰も人はいなかった。雪が積もっているというのに。
 それを見て喜ぶような人すらいないということか。コノセカイニハ。

 ベンチに座る彼に気付かれないように帰ろう。
 そして、心を落ち着かせるんだ。自分は大丈夫だと。平常心を装い、帰ることを決めた。

「すみません、写真撮らせてもらって良いですか?」

 恐れていた事が起きた。話しかけられている。自分が。カレに。
 落ち着いてきた心はまた大きく揺れ始めた。

 この男に言ってしまおうかと。ユキが怪我する理由をぶちまけて、別れてもらって。

 私がユキの横につく。

 そんなことをするために言ってしまおうかと。でもそんなことをしたらユキはもう私を許さないだろう。

 ああ見えて純情な子だから。
 きっと笑ってくれなくなる。
 そんなオモイからいつもの空虚な笑顔を作る。

 そして言うんだ。いつも通り。
 拒絶の一言を。

「すみません。写真とかあまり好きではないので、本当に申し訳ないです」

 知らない人に向かって撮らせてくれというほうがおかしいだろう。
 まともに機能し始めた頭で出した結論がそれだった。

「……」

 なぜ何も言わない。合わせたくもなかった目を少しだけ合わせた。
 『ショウ』は不思議そうな瞳で見てきた。

 こっちを見ないで。
 それ以上、言ってはいけない事を言いそうになる。

 『ユキを解放して』と。
 『もう、もう小さな芽を潰させないで』と。

 分かってる。この男が悪いんじゃない。この男を望んだ運命が、ユキが、ユキを狂わせたんだ。

 でも、許せない。
 ユキを狂わせる運命を作り出した、コノオトコが。ユキを変えていくコノオトコが。

 ――その運命の理由を生み出した、何も守れない自分が――。

「きみ……ユキの友達だよ……ね?」

 驚いて、少し目を見開いた。確か会ったのは2、3度だ。

 ユキと『ショウ』が出会った時。
 ユキに紹介された時。遠巻きになら何度も見ている。

 ユキがコノオトコに告白された時も、陰から見ていた。
 たまたまその現場に居合わせただけだけど。

不思議そうな瞳は確信を得たような目をした。

「えっと……それは……」

 言葉を濁して、逃げ道を探した。私はユキの友達だ。
 これ以上、仮にも『ユキの恋人』との接触は私の心をかき乱す。だめだ。

 憎悪が心の中を巡ろうとしているのを必死で止めているのだ。

 ユキの友達の私が彼に何を言おうとする。それとも独占欲の強い私が?
 ダメダ。ダメダダメダダメダダメダ。

「その」

「深森ちゃん。だっけ? よくユキと遊んでるよね?」

 確信を得たようだった。こうなったら話をある程度合わせて、早々に退散させていただくしかない。

 じゃないと、彼を壊し、間接的にユキを壊してしまう。
 私に流れている血はそういう家の血だ。

「あ、はい。えっと……そちらは?」

 わざと知らないフリをした。忘れたくとも、嫌でも頭に入ってくるその顔を。

「忘れちゃったか。まあ、会ったのほんの数回だったし。えっとね、ショウっていうんだ、俺。ユキと付き合ってる。会ったんだけど、覚えてない?」

 人当たりの良い笑顔でこっちを見てきた。
 しかも私のことはしっかりとインプットされていたらしい。

 憎たらしい――。

「ああ、ユキが紹介してくれた……ユキがお世話になってます」

 家族でもない私が言うのもなんだけど。
 ここで自分とユキのつながりを相手にしっかり示すために、使うのに良い言葉。わざと使った。

「ははは、そっか。こちらこそお世話になってます。横、どう?」

 ベンチの横をさりげなく空けられた。
 早くこの場所から立ち去りたいのに。

「いいえ。先を急いでいますので」

 自分の作れる最大の笑顔を作った。早く、一人にならなくてはいけない。そのために一人暮らしを始めたのに。

「先を急いでる子が普通、空仰いでる? それとも俺のことキライだったりする?」

 まあ、ある意味ここで始めて会ったんだから嫌いも何もないと思うけど。と付け足しながら笑った。

 何の目論見か知らないが、どうやら自分を放すつもりはないようだ。
 言っている事に見当違いは見られないけれど。

 心の中でため息をつきながら、彼の空けたベンチに座った。
 雪が積もっているわりにはこのベンチは濡れていなかった。たぶんずっと座っていたんだろう。馬鹿みたいに。

「なんで、私を覚えていたんですか? 数回しか会ってないんでしょう?」

 気になっていた事を質問した。

「なにって、職業柄……あとキレイな子だなって思ったんだよね」

 社交辞令? それとも本気? コノオトコも騙されている。キレイだって。馬鹿じゃないの。キレイなものは世界にどれくらいあるのだろうか。

 本当の意味でキレイなものは。
 人は知らないのだ。

 キレイと抽象し。その奥にあるものを知ろうとしていないのだ。私も例外でなく。
 本当に馬鹿。
 全部全部。

「キレイだなんてそんな、ありがとうございます」

 そんなこと思ってもいないくせに、そう思っている。
 なのに、その言葉に思ってもいない言葉を返す。人ってこんなに汚いのに。

 ヒトハコンナニモキタナイノニ。

「あのさ、今日遊んだんでしょ? ユキと。怪我とかしてなかった?」

 ああ、これが目的だったのか。ユキが心配で心配で仕方ないのね。
 その原因が自分にあるって気付いたら、この人どうなるんだろう。壊してみたい。

 でも、そんなに強くない私は、壊す事は出来ないのだ。

「まったく怪我していませんでしたよ。健康体そのものです」

 私が見たままに伝えた。
 おそらくその答えがほしかったのだと思うから。

「そっか。じゃあ、やっぱりワザとなのかな?」

 不意に衝撃を受けた。どういう意味かさっぱり理解出来なかった。
 恐る恐る横にある顔を見ると確信を得た顔をしていた。

 コノヒト――。

「なに? って顔してるね。でも本当のことなんだよ」

  何を言ってるんだ、この人は。

「ユキすぐ怪我するんだ。ここ最近。何でだか分かる?」

 くすぐったそうな顔をして笑っている。何がそんなに楽しいんだ。
 つまりコノオトコは分かっているんだろう。『ナゼユキガケガヲスルカ』。

 その理由を。

「俺のためなんだよ」

 何を言ってるんだ。コノオトコ。何が言いたいんだ、コノオトコハ。

「最初は半信半疑だったんだけど、今日確信持てた。ありがとう、君のおかげだよ」

 分かってたんだ。この人は。
 そして私はまたユキを苦しめるための選択の、一つのパーツになってしまったんだ。



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