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グループ企画
スノーホワイト【1】――フラ
 黒い髪がジャマをする。
 ウットウシイ。ウットウシイ。ウットウシイ。ウットウシイ。ウットウシイ。ウットウシイ。ウットウシイ。

 私は自分が嫌いだ。
 黒い髪のパーマも、自分の顔も、反響して聞こえる声も、上面だけ良くした自分の性格さえ大嫌いだった。

 この世はいらないものばかり。
 なくてもいいものばかり。

 私だって。
 好きなものなんてない、好きな事もない、趣味もない。

 カラッポだ。

 ワタシニハナニモナイ。

 あの時、ユキが降ったあの日の『あの野原』で出会ったのだ。
 『カノジョ』と――。


 ファミレスの外はふわふわとした『キレイナユキ』が降っていた。
 本当にキレイなユキ? どうだか。

 ふと携帯のメロディーが聞こえた。
 『ユキ』の携帯だ。ユキが軽く微笑んだ。

 きっと『アノオトコ』のメールなんだろう。
 周りの二人に聞こえないように軽く舌打ちした。

 ワタシにはめったに見せない、はにかんだような微笑。

 それを見せられるのがアノオトコだということに腹が立つのだ。
 よりにもよって私の大切な場所を汚したアノオトコなのだから。

 ユキがメールを打ち返している。その指には絆創膏が巻かれていた。

 その指を見て、また聞こえないように舌打ちするのだ。
 ユキはアノオトコに会ってから変わったんだ。

 どんどん怪我をする。
 ジブンノ『イシ』デ。

 2年前、ユキが『アノオトコ』と会ってから、怪我の数がどんどん増えた。

 これも『アノオトコ』のせいなんだ。
 それがたとえユキの意思で怪我をしたんだとしても。

 ワタシハカレヲユルサナイ。
 だって当たり前でしょう? 友達なんだもの。

 『トモダチ』という顔を被って私が『チガウカンジョウ』をもっていたとしても。
 『表面的』に友達であるのならば、私は彼女の一番の友達で、親友の座を意のままに出来るのだから。

 ――あなたは本当に白雪姫みたいよね。肌が白くて、髪が真っ黒。唇は赤だわ。

 どんな本から抜けだしてきたの? 心も純白かしら? 
 きっとそうね。私の汚れた心の分、あなたが受け取ってくれたんでしょう?

 本当にうらやましい。大好きよ。
 食べちゃいたいくらいに、ね?


 姉は昔私にこう言った。いつもにこやかに笑いながら。
 私は無機質な笑顔でこう返すのだ。

 ――そう? ありがとう。
 でもね、私、白雪姫ではないと思うの。きっと、白雪姫はもっとキレイでしょ?

 例えば……そうだなあ、『雪』みたいに――。


「じゃあ、また明日ー」

 志保が元気よく手を振って言った。

 私もいつもどおり『万人に受けいられる笑顔』で返した。
 本当の私を知っている人なんて一人もいない。

 親も、姉ですら知らないだろう。
 トモダチだって知らない。

 じゃあ、私にはトモダチはいない? そうじゃない。
 ココロに触れる事がトモダチの意味する事じゃない。

 きっといる。
 ワタシニハ、志保だってトモダチ。
 とっても仲のいい、ね。

「またあしたね」

 ユキがいつも通り言った。
 この時間なら『アノオトコ』のところには行かず家に帰るんだろう。

「うん。寒いから気をつけてね」

 『ヒトガキニイルエガオ』をユキにも向けた。

 ユキは真っ白なのに。それなのにこんな風に『被る』。
 ユキには必要ないだろうに。ユキなら受け入れられるのに。

 押し付け? まさか。

 ユキは私が最初に見つけた、
 ユキは私と同じ色をした、
 ユキを受け止めた、
 ユキを知った、

 ――ユキハワタシノコトバヲキイタ
 イチバンサイショノヒト――。

 だから親友。一番の。いちばんの?
 イチバンノ。

 それでも被るんだ。
 ユキに対しても。

 コンナワタシガダイキライ。
 キライキライキライキライキライキライキライキライキライキライキライキライキライ。


 本格的に雪が降り始めたが、時間的にまだ早かったため少しヨリミチをしていくことにした。
 家からファミレスまでの距離にあるものは、『カラッポナワタシ』を埋める十分な材料があった。

 1週間に1度この材料を触れなくては、私の心は持たなくなってしまうのだ。

 いわば癒し?
 そんな表現が自分にあってるかは定かではないけど。

 最初についたのは大きな神社だった。ここはユキと知り合ったとき一緒に来た場所。
 親友の証だと、友情の御守りを買った。

 もちろん二人で。オソロイノ。

 2年前まではユキと一緒にいれば、『カラッポナワタシ』を埋めることが出来た。
 楽しかったの。初めてだったんだ。そういうカンジョウ。

 でも、今ではユキと会う前に逆戻り。
 1週間に1度コウイウモノを求めてしまっているんだから。

 ついた神社の奥深くに大きな樹齢2000年の樹木が存在した。
 あるんじゃない。存在するんだ。そこに。

 この木は不思議だ。冬になっても『葉』を落とさないんだ。

 今、雪が降っている。
 なのにその雪もその木を避けるかのように、触れてはトケテイル。

 恐れているのかもしれない。終わりを。だからあるんだ。きっと。
 それでも新しい命をこの木は巡らせる。

 いつの間に変わったのかとこっちが思うほど。
 春にはキレイな緑に変わるんだ。その絵は神秘的。

 だからだろうか。『ワタシノカラッポ』を埋めるんだ。

 静かに、穏やかに。
 それでいいんだと。
 これでいいんだと。
 自分であっていいんだと。

 でも自分て何だろう。自分? ジブン。

 昔から、学級委員をやって、委員長やって、生徒会長をやって、人の相談にのって、疲れたらここに来る。
 それがジブン。


 ――あなたは何やったって出来るのよね。本当にすごいわ。
 今なんて生徒会長でしょう? 勉強だって学級首席。運動神経もそこそこ。人望もあるのね。

 どうして、おんなじ人間なのにこんなに違うのかしら?

 しかも血もつながっているのに。やっぱり私とは出来が全然違うわね。そんなものなのかしら。
 そのうち死体愛好家があなたのこと迎えに来るんじゃない?

 あら? でも、もしかしたらあなたは白雪姫よりも賢いんじゃない?

 きっと、何度も騙されたりしないわ、ねえ?

 やはり、姉がそう言った。
 だから、決まって私もこう返すのだ。

 ――まあ、騙されたりするつもりはないけれど、姉さんだって十分素敵だと思うよ。
 それに同じ人がいっぱいいたら怖いじゃない――。


 少し歩いて図書館の前まで着いた。シンボルマークは大きな鳥。
 アンデスコンドルと言うらしい。石堀でずいぶん迫力がある。

 なのに人を惹きつけてやまないのだ。この鳥は。

 ここで初めて私は志保と会った。
 その時、志保が持っていた本は確か……そう「白雪姫」だ。あと「茨姫」。

 ちょうど、ユキと知り合って3ヶ月くらい経った後だった。
 その日は混んでいて、相席を申し出たのだ。その時からの付き合い。

 志保は、志保も、ある意味でとても無機質で傍にいても疲れなかった。

 もしかして、私は病んでいる? まさか。
 もしそうだとしたら多分アノオトコのせいだ。きっとそう。絶対そう。

 いつの間にか仲がよくなった3人はいつも一緒にいるようになった。
 いつからの付き合いなんだろう。
 ユキと知り合った私が、志保と知り合って、一緒にいるようになった。

 ――あなたは何だって一人でやってしまうのね。すごいわ。料理だって出来る。
 掃除、洗濯、家事全般いけるじゃない。本当に私はいらない存在ね。

 いつも全部やってしまう、私は必要ないのね。私ったらあなたに迷惑かけてばかり。
 本当にすごい。本当にね。

 お母さん、大変だわ。結婚披露宴で死ぬまで踊らされるそうよ。
 白雪姫では。ああ、可愛そうに。

 でも、あなたはそんなことする人ではないわよね?

 姉がそう言った。いつものように。いつも通り。
 そして私もいつも通り返すんだ。

 ――姉さんだって出来るでしょ? 毎日花に水をあげている、毎日掃除だってやっている。
 いらないものなんてないの。ただの一つだって。そうでしょう?

 それに私たちのお母さんは『白雪姫』の王妃とは違うでしょ? とっても優しくて明るい。
 私だってそんなことする人間じゃないよ。姉さんだって分かってるでしょ?


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あきゅろす。
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