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グループ企画
最終話――ぷらむ
 何故。
 何故こんなことをしなければならないのでしょうか?

 …………思わずガラにもなく、敬語を使ってしまった。

 あたしは今、家主であるはずのこの家で、最悪なかくれんぼを実施中だった。
 残念ながら、棄権や中止は認められないようだ。

「……澪さん、あの、私。澪さんに言わなきゃいけないことがあるんです」

 ぁぁあああああああああああぁぁ……。

 何てことだ、ジーザス! あたしという奴がバカバカバカ!

 まず偶然とはいえ、こんな現場に居合わせるなんて……あ、でも今出てったらあいつの最高に困った顔が見れるなぁ……こんな時にまでそんなこと考えるなんて、あたしったら究極のドSっ。


 じゃなくて。


 実は、こんなふざけたことを考えつつも、心中荒れ狂っていた。
 一刻前には冷え切っていた手も、既に温まっていた。

 それどころか体中が熱い。
 こんなこと初めてだ。

「澪さん、あの、私っっ」
 その時だった。


 ガチャンッ!!!
 音の出所はあたしの隣――棚に無理やり詰められた、トマト缶が崩れ落ちていた。

 ――Sの人間は基本、非常事態と自分の思い通りに行かない展開に弱い――あたしもしかり。

「ぅひゃああ!」
「「!?」」
 それはマンガの様に。

 缶同様、あたし達三人の積み重ねられた友情は、この瞬間を持ってグチャグチャに崩れ落ちた。

 もう二度と戻らない程、グチャグチャに。



「……澪さん、あの、私。澪さんに言わなきゃいけないことがあるんです」

 店の片付け中、俺はたまきちゃんに告白とも勘違いできる言い回しで、話しかけられた。

 たまきちゃんが俺に話しかけるなんて珍しいな〜……じゃなくて。

 どーにも、俺の勘違いは、勘違いではなかったようだ。
 たまきちゃんの丸くて可愛らしい目が、いつもと違い強く意思のこもった目つきをしていた。

 ドキッ。
 ズキンッ。

 心が跳ね上がるような、軋むような、何とも息苦しい思いが俺を襲う。

 言葉が出ない。
 頬が、体が熱く……失敬、話を大きくしすぎた。

 だが、そう心の中で悪態をつこうと、拭い切れないほどの思いが邪魔をする。
 前言撤回。

 話をもっと大袈裟にしていいくらいだ。

「澪さん、あの、私っっ」

 駄目だ
 何故?
 助けて
 何で?
 傷つける
 誰を?
 告白?
 違う違う違う!

 ――――春樹。


 ガチャンッ!!!
「ぅひゃぁあ!」

「「!?」」

 その時驚きは俺を冷静にさせた。
 失敬、この後驚きは俺を絶望に落とさせる。そして友情も。
 何もかも。


 店の天井から吊り下げられたテレビは、どうしようもない、正直言って面白みも何もない、昼ドラの最終章をしょうがなく映し上げていた。

 この店のテレビはこのチャンネルしか映さない。

 といっても、片付け中の私達にはその音すら気にならなかった。
 店内を支配するのは夕暮れの憂いを含んだ光と、澪さんの鼻歌。

 そして私の一言による、一寸の緊張感。

 澪さんの顔が曇った気がする。
 ごめんなさい澪さん……春樹さん。
 それでも私、言わなければいけないんです、この気持ちを。

「澪さん、あの、私っっ」


 ガチャンッ!!!
 ――ああ、神様はイジワルだ。

 だけど春樹さんはもっとイジワル。そして、それを願った澪さんも。


 三人の見苦しくも甘酸っぱい、五分間ほどの怒涛の回想は如何だっただろうか?

 ここからは俺、澪の目線で進むとしよう。
 この私的絶望物語の最終章を。


「春樹さん……」

「春樹!」

 俺が不安のあまり心の中で名を呼んでしまった、その本人は俺の横にいたようだ。

「……ごめん、今すぐ出て」

「いいえ、ここに居て下さい。春樹さんが居た方が良いのかもしれない」

 この会話を聞いて、やっと心が静まった。
 よーく考えてみれば、まだ告白も、何も、たまきちゃんは一言も話していないのだ。

「そ……う、じゃあ失礼して」

 春樹は俺の隣に椅子を引っ張ってきて座った。

「落ち着きなさいよ、澪」

「えっ、あっ、ああ」

 にこっ――春樹、俺は再び君が女神に見えた気がしたよ。
 前言を引っ張り出すなら<もの凄く、今この瞬間ここに来てくれたことに感謝している>と言ったところだ。


 《ちなみに前言撤回まで後五分。皆さん温かい目で見守って頂きたい。》


「では、改めて。私、澪さんのことが好きなんです、すごく」

 ドクン。
 心臓が跳ねる。予想的中。
 落ち着くんだ、俺。

「でも……俺っ……!!」

「知ってます澪さんが
女性だということ」

 俺にとっても、この物語を読んでいる方々にとっても、衝撃的事実が今を持って発表された。

 そう、今まで俺俺言ってきたが、生物学上は私なのだ、俺は。

 失敬、要は女だということだ。

「だからこそ、私は心惹かれたんです。男性が苦手で、それ故に自分は男っぽく振舞っていて……けれど心優しくて、実はナイーブ。それでいて、おっちょこちょい」

 隣で春樹が小さく笑い出した。
 なるほど、こいつから全ての俺の情報が漏れ出していたのか。

 若干いや、失敬ほとんど全て間違っていないので、否定も出来ず、顔が熱くなってきた。

 是非ともこれ以上の情報漏洩は防ぎたいものだ!

「あ――っと」

「! すみません、こんな。なので、えっとあの……私と……いえ」


「僕と付き合って下さいっっ!!」

 ん……えっ、あっ、はっ!?

「ちょっまっ男ぉっっ!?」

「やっやっぱり気付いてなかったんですね……」

「あらら、読み手様的にも、澪的にも衝撃的(本日二回目)だね〜」

 えっ? あっはいっ?
 いやいやいや、おかしいだろ!

 失敬、俺が言うのもなんだった。
 てか、こいつは、春樹は気付いていたのか。

「ぼっ、僕も女性が苦手だったんです……昔イジメられて……でも貴女のおかげで、貴女に出会ったおかげで僕は、女性への恐怖を克服できたんです。
それで途中で気付いたんです、もしかしてこれは、愛なんじゃないかなって」

 そういうことか。うん?
 いや、そういうことなのか?

「口下手だから、今の今まで男だってことすら伝えられませんでした……本当にすみません。でも、僕は本気です」

 キュン――たまきちゃんの透き通った瞳に見つめられ、思わずときめいてしまった。

 腐っても俺はなのだ。

「ふぅ……こんなところに敵がいるとはねぇ〜」

「「えっ?」」

「そろそろ作者的にも、収拾つかなくなってきたからさっさと話進めるね?
私と澪は昔からの幼馴染みなの。今だって女子校LIFE真っ盛りなわけ。――…まぁ、たまきちゃんの世代から共学なわけだけど、ね?」

「あ、この物語を読んでる皆さ〜ん、先に申し上げておきますが、春樹さんはれっきとした女性ですからね」

「たまきちゃん、ナイスフォロー! 面白くなってごめんなさいね? 皆様。
で、ね、昔からあのドジ……いやいやオモ……いやいや澪をいじめたり世話したりイジメたりいじめたりしてたわけ」

「そこ、言い過ぎだろ!!」

 失敬、空気も読まず突っ込んでしまった。

「で、よ? あんなに可愛く"なく"あの子を見てたら、やっぱり、芽生えるものがあるわけよ、あー、めんどくさいから行動に表すと」

 ちゅっ。

「こういうこと……あんたはあたしのものよ! 澪」

 雀の鳴き声の如く小さな音が耳元を襲う。
 口許には何か、柔らかいものが触れた感触。

 キス。
 顔どころか、脳内まで真っ赤になった気がする。

「へっえっあぅっ、何っ……!」

「やっぱりイジワルです……」


 さっきまでのドシリアスはどこへやら。
 俺の目の前は黒に赤にぐちゃぐちゃだ。

「あー崩れたと思った友情も愛情として名を替えて、素敵に立ち直ったね」

「……最悪だ」

「僕は諦めません。必ず貴女を射止めます」

「たまきちゃ……」

「冗談、あたしがいること忘れないでよね?」

「俺を抜きで話を進めるなっ!! というかまだどっちとも付き合うなんて言ってない!!」

「「えー」」

「えーじゃないっ!!」


 矢張り、待ち受けるは――絶望だ。



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あきゅろす。
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