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グループ企画
スノーホワイト【4】――フラ
 分かってたのに。ナゼ?

「……どうし……て」

 振り絞って出した声は信じられないほどか細いものだった。

 震えが止まらない。
 きっと寒さのせい。

「その様子だと……君も気付いてたんだね、最近ユキの怪我が増えていること」

 何で、コノオトコは分かってたのに。

「何で……」

「ユキはね、俺の気を少しでも惹こうとしているんだよ。そのために怪我をする。そうしたら気が惹けるだろう? 『お前は危なっかしい』『目が離せない』って」

 気付いてたんだ。全部。

 なのに。
 なのに。
 なのに!

「なんで!! そんなことに気付いていたのに離れようとしなかったの!! ユキが、ユキがボロボロになってるのにっ! なんでっ!!」

 自分でも信じられないほど声が出た。自分でも信じられないほど目の前の男が憎い。
 気付いていて、それでもユキを傷つける目の前のオトコが憎い。

 ニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイ。

「なんでって……嬉しいだろう? 普通。それほど好きになってくれてるんだって。それに怪我の手当てちゃんとやってるし、怪我には注意するように何度も言ってる」

 笑って言った。コノオトコ最低だ。
 最悪だ。

「そのために、ユキは何度も怪我をしているの! 手当てをするって話じゃない!! ユキはボロボロになっているの! あなたと会って体だけじゃない!! 心だって!」

 ユキはどんどん深みにはまるかのように沈んでいった。それをずっと目の前で見てきたのだ、私は。

 コノオトコが、ユキが怪我をしていた理由を知るコノオトコが。
 沈んでいくユキの様子に気付かないはずがない。

「深森ちゃんは友達思いなんだね。でもね、それを望んでるのは俺じゃない。ユキなんだよ。ユキは知らず知らずに『俺に束縛されたい』って願望を持ってるってこと」

 私の目をしっかり見て言った。

「確かに、ユキにはこれ以上怪我をしてほしくはない。そのためにはどうすれば良いって君は思う?」

 答えは既に決まっていた。

「ユキと別れて下さい」

 私が最初から決めていた言葉。そして、そこまで理解している男なら、もしくは別れてくれるのではないかと。
 そう思ったのに。相手の考えは私の遥か上をいっていた。

「深森ちゃんの考えは若いね。でも一番良い方法は、ユキの望む通り完全に束縛すれば良いんだよ」

 この男は何を言っているんだろう。

「俺がユキを絶対に離さない、その確証がユキを安心させる。もう俺がユキしか見ないという安心感がユキに怪我をさせない。完璧だろ?」

 にこやかに言った。何を言ってるんだ。
 正気なのか。

「そんなことでユキが救われるって。ユキをそれ以上苦しめてあなたは楽しいんですか!」

 おかしい、そんなの。ユキを苦しめることしか出来ない。絶対に。
 絶対的な束縛がもたらすのは破滅だ。

「苦しめるつもりはないんだけど。いつだって俺は『ユキ主義』だよ? それとも深森ちゃん、ユキに特別な感情があったりする?」

 何を言ってるんだ。さっきから。
 的を得ないことばかり。何を言ってるんだ。

「そういえば、さっきからの反応見てると『ただの友達想い』には見えないな」

 私のことを見上げるその顔は穏やかに笑っているけど、目は笑っていなかった。
 中は違うものがあった。

 その時、コノオトコのことが嫌いな理由がはっきりした。コノオトコは私と同じなんだ。
 世界を斜めから見てる目だ。

「まあ、なんでもいいけど。ユキは俺が『好き』なんだよ。信じられないほど。そんな俺がユキを振ったほうがユキがボロボロに傷つくんじゃないか?」

 余裕の笑みを見せてきた。そうだ。分かってた。
 ユキはコノオトコが大好きなんだ。分かってた。でもコノオトコは。

「最低ですね」

 いつものポーカーフェイスも人当たりの良い笑顔も私から消えていた。

「分かった。君が気になった理由。俺と同じにおいがする」

 『ショウ』からも笑顔が消えた。同じなんだ。ユキに言わなくちゃ。

 コノオトコはだめだって。
 ユキにふさわしくない。
 私と同じ。
 ユキに言わなくちゃ。
 コノオトコは全部気付いていて、分かってたんだって。
 伝えなくちゃ。
 だめだって。
 コノオトコだけは絶対だめだって。

「あなたのこと、ユキに言います」
「好きにすれば良いよ」

 さよならも言わず、広場を離れた。
 『人当たりの良い優しい人間』と言われる自分が。大好きだった広場を。

 ユキと最低な男とを出会わせた。大嫌いな広場に名を変えて。

 暖かさのない家についた。リビングの電気をつけてさっそく携帯を開く。
 ――あなたは得てばかりの人生ね――。

 どこが。失うばかりだ。

『ユキへ、さっきはありがとう。指怪我してたみたいだけど大丈夫? 突然で悪いんだけど、これから大切な話があるんだ。空いてる?』

 送信のボタンを押した。ユキに全部言わなくちゃ。親友じゃなくなっても良い。
 でも、ユキが幸せになれるように、ちゃんとユキに伝えなくちゃ。

 ――あなたに生まれたら私もっと幸せだったかしら。

 この私が幸せに見えるのか。

 白雪姫のメロディが流れる。

 私は思うんだ。ユキは自分のことを斜めから見ているけど。
 ユキこそが本当の『白雪姫』なんじゃないかって。あのコの心はキレイなんだ。本当の意味で。

 だから。アノオトコだけは。

『指の怪我は平気。ちょっと切っただけ。今からだったら、そうだな、広場。広場で待ち合わせしよう。夜ご飯食べ終わってから』

 わたしね。あなたのことがとっても好きよ。
 可愛くてキレイで何でも出来て、だからね、とっても嫌い――。

 やっと本当のこと言ったね、お姉ちゃん。知ってたよ。私は。
 お姉ちゃんが私のこと大嫌いだってこと。

『わかった。またあとで』

 今日で終わりになるかもしれない。ユキとの友情。
 でも、それでも、ユキには幸せになってほしい。

 さっそく準備を始めた。コートとマフラーを出し、小さな小物入れに手をつけた。
 その中に入っているのはユキと買ったお揃いのお守りだ。『友情の御守り』。

 きっと今日で効果が切れてしまうだろう。それでも。


 ――ねえ。林檎用意してあげよっか?
 真っ赤で見るからに美味しそうな。私よりもキレイなんだから――。

 コートを羽織り、玄関に向かった。時間はたっぷりある。考えるんだ。何から言うか。

 二人で買ったお守りを握り締めながら、約束の広場へと向かった。


第三話――スノーホワイト【完】


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