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グループ企画
第一話――有里
 そこには大量の料理があった。

「……一人で食えってか!? 殺す気か、殺す気なのか!?」

「だぁ〜れも殺すなんて言ってないでしょ? 澪が食べきればいいだけ。まあ、食べれなかったら三十万だけどね」

「まさに死ねといわんばかりだ……」

「なんかいった?」

「いえ」

 失敬。
 申し遅れた。

 オレの名は、澪。
 健気なやんごとなき普通の学生である。

 いや、しかしこの状況で目の前に起こりうる光景に驚愕し、説明を怠るのは人間として間違った反応ではなく、むしろ枠にはまった反応だろう。

「あ、言い忘れてたけれど、四十五分で食べきってね」

「はっ?」

 目の前にいる悪魔……失敬、言葉を間違えた。

 天使のごとく美しい微笑を浮かべ、その背景にほんのりピンク色……だったらよかったのだが、ブラックを背負う彼女は俺の幼馴染でこの家の娘である千葉春樹だったりするのである。

 ちなみに俺は彼女以上のS……腹黒を見たことはない。

 その辺を分かった上でこの話を読み進めていただきたい。

「ん、じゃ測るよ」

「ちょ、まっ……」

「スタート」

「うおい!」 

 俺はなぜこのような状況になったのか説明せねばならない。

 事はニ時間前―――いわゆる学業に重んじていた時の事だった。


「あー腹減ったー……」

「何言ってんの? 澪が弁当忘れなきゃ良かったんじゃない!」

 あー春樹が怒っている。
 無理もない。

 俺は弁当を忘れ、料理屋の娘である春樹から、弁当を盗もうとしたのだ。

 しかしながら、弁当は中を舞い、挙句の果てには、まっ逆さまに落下していったのだ。

 しかも外に。
 つまり我がクラスのある三階から校庭までを蝶のごとく華麗に舞ったのだ。

 そのせいで俺だけでなく、春樹までもが弁当を食べることが出来ないという大惨事である。

「いや……すまない」

「すまないじゃないよ!! 馬鹿っ! あっ……そだ。腹減ってるんでしょう?」

「ああ」

「じゃ、放課後家来る? 食べさせてあげる」

 このとき嫌な予感がした。

 その予感にしたがって家に普通に帰っていればよかった……と思うには、後悔先に立たず……といい既に遅いのだ。


 なんて回想しているうちに四十五分が経過した。

「はい、ストーップ」

「うっぐっ……!」

「あららーおっしー八割食えたのになぁー」

 なんだこいつっ!!

 楽しそうにしてやがる。こっちがどんだけ苦しい思いをしたかッ!!

 とはいっても自分に非があるので認めざるをえない。

「春樹……俺は三十万なんて持ってない。てか、健全な学生がそんな大金あるわけねぇだろ」

「うん知ってる」

 馬鹿にされているのだろうか。

「だったら……」

「家で働いて」

 は? 何を言っているんだこいつ。

「おい何いって……」

「人手足りないんだよねー。澪なら逆らえないと思うし……一応確認なんだけど、いいよねっ」

 コイツの笑顔をどうにかしてください。
 有無を言わせない笑顔に黙って頷くしかないのだろうか。

 というより最初から、『働かせる』という名目で呼ばれたのだと今更気付く俺は馬鹿だと思う。

「ああ! わかったよっ! やればいいんだろっ! やれば!」

「うん! そういうこと」

 この家のおやっさんには良くしてもらってる。
 その恩を返すにはちょうどいいし、皿洗いくらいなら、出来るはずだ。
 接客はないだろう。

 ってことは他人との係わり合いが苦手だと自負する俺にでも出来るはずだ。

 ……と、考えたのが甘かったのだ。

「じゃあ、明日からねっ。朝8時集合っ。いいかね澪君!!」

「はいはい」

「『はい』は一回でよろし!」

「はいっ!」



 そんなこんなで次の日。
 俺は春樹の家に向かった。
 家の裏方門に回り、門をあけると、知らない女の子が立っていた。

「えっ」

 年はたぶん俺と同じくらいだ。
 とても可愛らしい。背は俺より小さくて小柄だ。髪はストレートの黒で目が丸い。

 このような美少女を可愛いと言わず他にどう表現すればいいのか、俺が持ち合わせるボキャブラリーでは表現できない。
 
 失敬。少し浸りすぎた。

 っというよりも、お互い凝視しながら硬直している。
 三分くらい立っている気がする。
 そろそろ冷や汗も出てきた。

 ど、どうしよう。
 とりあえず、挨拶を……。

「おっ、うぉはようございます」

 ……噛んだ。なんだか泣ける。

「…………………」

 無反応かよっ!
 失敬。思わず突っ込んでしまった。

 てか、凝視しないでくれ。
 反応に困る。

「あ、澪! 来たかっ」

 今ほど春樹が神様、女神様に見えたことはない。

 神々しく眩しく光るその笑顔に感謝する日が来るとは、と思う気持ちと、今来てくれてありがとう。

 今後君の奴隷でも何でも、重んじて俺は受け入れよう。
 それほど君はまぶしい存在だったのだと知らなかった!! と思う気持ちが混ざり合っていた。

 まあ、簡単に言うと、すごく、ものすごく、今この瞬間ここに来てくれた事に感謝しているということだ。

「たまきちゃん、この子だよ。さっきいった今日からのバイト」

「……あ」

「澪、紹介するね。うちのバイトに入ってくれている、琴名たまきちゃん」

 春樹が『たまきちゃん』の背中をぽんと押した。

「え……っと、はじめ、まして……琴名たまき、です」

 おろおろした調子で話した。
 声もとても可愛らしいのだな、と思った。
 聞けば彼女は同じ学校の一つ下、つまり後輩であることが分かった。

 家の事情でバイトをしているらしい。

 なら、人手が足りないと、俺をバイトに借り出さなくても……っと春樹に言おうとしたが、さっきと違った、ある意味神々しい有無言わさず笑顔で微笑まられた。

 さっきの奴隷〜の発言は撤回しようと思う。

「さっきは失礼しました……」

「ん、何が?」

 今、俺はたまきちゃんと二人で野菜洗いと切り、下準備に重んじていた。

「話、かけられたのに……無視、しちゃって」

「いや、全然気にしてないよ」

「みたこと、ない人だったから、どこの不法侵入者かと……ごめんなさい」

 そんなことを考えていたのか。
 礼儀正しく、考えていたことまでつらつらと語ってくれて嬉しいのだが、犯罪者とされるのはいささか胸が痛い。

「そんなことよりさっ、敬語やめない?」

「え」

 目を丸くさせた。
 きょとんとしていて可愛いと思う。
 ……考えていることは確かに少し怪しいかもしれない。

「でも、先輩だし、生徒手帳に『先生、上の立場なものを敬うこと』と書いてあったので」

 律儀にあの生徒手帳に書いてあることを守っている人を始めて見た。
 ずいぶん彼女は生真面目らしい。

「じゃあさ、この店じゃ君の方が先輩じゃない? じゃ、俺敬語使う?」

「い、いえ! そういうことではっ!!」

 とてもイジリがいがある。
 春樹のせいで分かりにくいが実は俺もSなのだ。

「では、敬語はやめるので……先輩も普通に話してください」

「じゃさ、あと名前で呼んでくれない? 俺も『たまきちゃん』て呼ぶから」

 たまきちゃんは少し悩んでいる様子だ。
 また先輩は敬うべきとか考えているのだろう。

 あの生徒手帳は余計なことがたくさん書いてあるので守っている生徒なんて一握りだ。

「じゃ、澪さんで」

「おけ、これからよろしく、たまきちゃん」

「よろしくお……よろしく、澪さん」


 そんなこんなで俺の鮮やかで楽しく、すばらしい……のかはよく分からないがバイトライフが始まったのだ。



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