会えない、会わない 会いたいのか会いたくないのか。 会えないのか会わないのか、自分じゃ分からなくなっていた。 一月、最初の週が過ぎた。 あの後、一度も遼くんには会っていなくて、話と言えばメールか電話か。 そのメールすらも一言だけの短文、返信は五時間後とかだったりして、どれだけ遼くんが多忙なのか分かる。 旭くんからの連絡もない。 こっちは私と顔を合わせにくいのか、それとも六条本家、遼くん絡みの仕事を旭くんも手伝っているから忙しいのか。 それはよく分からなかった。 日に日に、会いたいと思う気持ちが増す。 一日千秋の思い、ってこのことだと思う。 一目会えれば、言葉を交わせば。 この不安も悩みも疑問も全て、どこかに吹っ飛んでいってくれるかもしれないのに。 でも、会えなくて良かったと思う瞬間も確かにあって。 「遼はどう思ってるか分からない。でも俺は、晴乃の心の隅には主従関係に近いものが出来てると思う。雛鳥の刷り込みに近いよな、無意識の内にそうなってる」 旭くんにそう言われてから、私の中で疑問が生まれてしまっていた。 本当に対等な意味での遼くんの妻になれるのか、という疑問が。 なれる、と結論を出しても本当に? ともう一人の私が問い掛ける。 旭くんの言葉が耳から離れなくて、確かにそうだ、と納得してしまっている私がいて。 心も立場も、対等な妻になれない。 それで遼くんを癒す存在にも、共に戦う戦友にも、いざという時に使う切り札にもなれない。 心の負担だけをかける存在なのならば、いっそ身を引いてしまった方が良いんじゃ、と臆病な私が呟く。 でも、それだけは嫌だともう一人の私が叫ぶ。 いつまでも終わらない、自問自答の繰り返し。 こんな風に思うことさえも、遼くんに対する裏切りなんじゃないか、と思う。 最低だ。 ……こう思ってる私が、遼くんに会って良いわけ、ないじゃない。 考えて考えて、二つだけ分かったことは。 これは好きとか愛とか、そういう問題じゃないってこと。 このままの状態でいれば、私はおそらく、そう遠くない未来に判定者の手によって『六条遼の妻』から外される、ということ。 目次 [*前へ][次へ#] |