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「まず、一般人が抱いている神のイメージについて答えてみろ」

「天上で生まれ、人間界を見下ろし、世界を掌握する者――――ってトコ?」

「本物…………姉さんが腹を抱えて笑いそうなイメージだな」


 十六夜は冷たくそう放つと、これ見よがしに溜息を吐いた。

 こうやって一般論からこの解説をするのは初めてではなく、もう何度目か数えるのも嫌になる程した。なのに麗夜の頭にはちっとも残らない。

 どうしてここまで麗夜は馬鹿なんだろう、溜息にはそんな思いが込められている。


「神は、地上で生まれる。昔――冥王に天上を譲り、地上に降りてからずっと、神は人間と同じように生まれてくる。人間の女の腹から生まれ、育つんだ」


 十六夜は淡々とした声で続けた。


「人間の傍で生きている……一般の人間がその事を知らないだけで、神はそこにいる。もっとも、一般の人間にはその違いが分からないのかもしれないけどな。でも、それが本当なんだから仕方ない」

「もしかしたら自分が知らないだけで、身近な人――例えば、家族や友人が神かもしれないのよねぇ。まぁ神以外、誰にも分からないけど」

「今回みたいに被害を出さない限り、神と神を認知している人間は、出来るだけ関わらないようにしているからな。理由は多々あるが、一番の理由は面倒だからだ。万一全面戦争なんて事になれば、面倒この上ない」

「でも独立して存在している人間とは違って、神は人間に存在を確定して貰えなければすぐ消滅しちゃうのよね?」


 神は生まれ落ち、ある程度時間が経つと、自分が何処の何の神かを悟るらしい。それが近い場所である者もいれば、国を越えた向こうの神である事も多い。生まれ落ちる場所は規則性も何もなく、また自分が神だと知るタイミングも神によって様々だ。

 中には、一生自分が神だと知らないモノも多いという。

 それでも信仰されているのならば、とりわけ問題はない。信仰の対象はあくまでもその『神』であって、別に神自身が信仰されようとされまいとあまり関係ない。しかしその『神』が信仰されなければ、直ぐ様消滅してしまう。

 少し難しいので、例を出そう。

 例えば、麗夜がキリストという神として生まれ落ちたとする。麗夜は神として生まれ落ちた事を知らないので麗夜自身は崇拝されていない。しかしキリストという神が誰かから信仰されていれば、麗夜は存在出来る。

 しかし逆に、誰も信仰していない神として生まれ落ちれば、麗夜が生き神のように崇拝されていても麗夜は存在出来ない。信仰対象はあくまでも『麗夜』ではなく『神』なのだ。


「存在を忘れられるという事は、この世界に存在しなくても良いと思われる事と同じだからな。だから、存在出来なくなる。――――そんな世界の理に従って、存在を忘れられた神は消滅する」


 俗に神隠しと言われる現象の半分程は、この事が原因らしい。

 例え生まれ落ちても、人間がその神を信仰しなければ存在出来ない。神という存在は、非常に受け身な性質を持っている。

 その点、伊織は非常に良い条件で生まれ落ちた。

 皐月家の隣にある如月神社の神として生まれ落ち、また周りの人間は神についてよく知っている。しかも伊織自身、早い段階で神だという事を自覚していた。彼女が今日まで存在していられるのも、これが要因の一旦になっている事は明らかだ。


「だから神は、例えば土地神として崇めて貰うとかして、存在を保ってきたのよね。他にも宗教にしたり、碑を立ててもらうとか、方法は色々あるけど」

「まぁ、そんな面倒な事をせずとも、存在を確定する方法はいくつかある。それが実現不可能だというだけで、一応理論的には存在しているという物もある」

「それが……」

「あぁ。その一つが『名前』」


 そういって、コーヒーを口に運ぶ。自分のために入れたと思っていた麗夜は、十六夜を思いっきり睨んだ。


「くれないの?」

「飲みたかったら、自分で入れろ」

「…………」


 あぁ、殺してやりたい。

 爽やかな笑みでにこりと微笑む麗夜からは、殺気が溢れていた。

[* bACk][NexT #]
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