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その瞬間――文句を無視された事も、十六夜の呆れたような口調も、全てが麗夜の思考の中から抜けた。
瞬時に体を駆け抜ける、悪寒。
白くなっていく頭。
ただ震えるだけの手が、緊張を伝えてくる。
「…………神?」
「あぁ」
「…………っ」
「羽事件の原因……容疑者といっても良いが、それは神だ。忘れられようとしている神が、今回の事件を引き起こした」
十六夜はそう告げたが、告げられた麗夜は、十六夜の言葉など耳にすら入っていないかのような様子だった。
十六夜はもう一度溜息をつき、立ったままの麗夜の手を引き、座敷に座らせる。
麗夜は無言のまま、唇をかみしめていた。
「お前らしくないな」
「…………まさか、神だなんて……」
「神だろうと何だろうと関係ない。それが俺達の家業だ」
インスタントコーヒーをマグカップに入れながら、十六夜は淡々と言い切る。そんな十六夜に、麗夜は小さく笑みを漏らした。
「そうね…………どんな相手にしても、あたしは勝てる」
相手が例え、神でも。
麗夜はそう言うと、いつもの笑みで十六夜に笑いかけた。好戦的な、小悪魔のような笑み。
「それに緒里さんがいれば、大丈夫。だって緒里さんは『名』持ちの神なんだから」
そう。十六夜の姉、皐月緒里は人間じゃない。
神――――地上で生まれた、特別な力を持つモノ。その中でも特異な、唯一の冥王から『名』を与えられた神。
そんな緒里がついているから心配する事は全くないと笑う麗夜に、十六夜は若干の呆れをこめた瞳で睨む。口は今にもため息を吐きそうだったが、それはぐっと堪えられた。
「お前、神がどういう存在かちゃんと理解しているのか?」
「してるわよ。あんたや爺様に、耳にタコが出来るほど繰り返し説明されたじゃん」
「なら、何で姉さんに頼るっていう答えが出てくる? 今回姉さんが関われるはずないだろ」
「?」
「…………もう一度、おさらいする必要があるみたいだな」
どう考えても無理な事を自信満々に言いきり、その間違いを指摘すれば意味が分からないとでも言うかのような顔をする麗夜に、十六夜は深い深い溜息を吐いた。
[* bACk][NexT #]
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