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現実 -happy end-
いつもと変わらない日常と、
日常に飽きた人は言う。
いつもと変わらない非日常と、
非日常に飽きた人は言う。
日常に飽きた人が増えると良いと、
あの日あの時あの人は言った。
日常に飽きた人が増えると良いと、
この日この時私は言った。
現実 -happy end-
断末魔の叫びと一筋の閃光が、静寂の夜闇を切り裂いた。
一瞬夜が明けたのではないかと錯覚するほど強い光。それは瞬く間に世界を白く染めあげ、そして元の静寂に戻っていく。まるで聖書の一節のように。
その光の源は、神ではなく、麗夜が握っている一振りの剣。月光に似た青白い光が、今は淡く発光していた。
「れ……いや…………」
そう言い残し、十六夜の体がぐらりと崩れる。
慌てて受け止めると、そこにはいつもの彼が――――どす黒かった顔色も失せ、元の顔色に戻った彼がいた。
もう、彼の体には神がいない。『存在』ごと天叢雲剣で切られた神は、この世の理に従い、自然消滅する。
もう、終わったのだ。
しかも、最良の結末で。
「成功だぁ…………」
涙が出たが、最後の力を振り絞って堪える。だが、涙は止まらなかった。
麗夜がもらした微かな嗚咽に、十六夜の目がゆっくりと開く。
状況を確認するために辺りを見回し、そして最後に泣きじゃくる麗夜に目を止めると、微かに微笑んだ。満足そうに。そして、とても嬉しそうに。
「……一時はどうなる事かと冷や冷やしたが、影も気配もないし…………成功だな」
影はすっかり消え去っていた。代わりに、消え損なった一枚の羽が水溜まりに浮かんでいる。
十六夜は、泣きじゃくる麗夜を横に置くと、その頭を撫でてやった。そして彼女の頭を撫でつつ、先程まで麗夜が使っていた剣を手に取り、しげしげと観察するように見る。
祭式用の剣のような、細密な模様が刻んである剣。
見た目も、名前も、そして力も、意志の弱いものなら思わず立ちすくんでしまいそうになるほど威厳があるその剣は、麗夜を認めているかのように輝いていた。
「天叢雲剣…………か」
白い刃が霞色帯びている。
その刃面に夜の月がぼんやりと浮かんでいるさまは、とてもとても綺麗だった。まるで、夢物語に出てくる宝剣のようである。
「…………なんだかんだ言って、神童と呼ばれるだけあんだよな。コントロールも天叢雲剣が麗夜を認めたからすぐつくだろうし」
そう言った矢先に、一筋のあまりにも強すぎる風が吹く。
風を吹かせた張本人は、とても不思議な物を見るような目で十六夜の方を見ていた。涙のあとが乾いて街灯に反射している。
「ごめん。力が放出して…………止まらない」
続けざまに、地面に強くたたきつけるような雨。風の勢いは増し、微かに地面が揺れ動いている気がする。
明日の朝、地震と台風によって破壊された家屋のニュースがやらなければ良いなと思いつつも、十六夜は苦笑した。嫌そうな、嬉しそうな。
「一番、俺の災いとなるのは……お前のようだな」
そんなお前だから、と心の内はまだ話さないが。
――――――――
目を覚ますと何故か日付が変わっていただの、あーだのこーだの。人々はこぞって、この一連の『不思議事件』を取り上げている。
如月家でも、居間に置かれたテレビから「こういうことがあって……」と偉そうなおばさんが講釈していた。祖父が読んでいる新聞も、母親が昨日行っていた井戸端会議でも、この話題ばかりだった。
家族はもういい加減その話題に飽きてきたらしく、今日はテレビもつけずごろ寝するらしい。
そんな家族の顔は苦い。
その顔からは、麗夜が天叢雲剣に認められた喜びと、恐ろしい力を持つ娘の将来を不安に思う気持ちとが入り交じっている。
羽事件の真相も家族の気持ちも、全てを知ってる麗夜は苦笑した。
影の歌は、もう聞こえない。
I feel as thought all my strength has drained away.
体力ガ全部尽キテシマッタヨウナ気ガスル
[* bACk]
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