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「馬鹿じゃない?」


 少し時間は戻る。

 無理矢理天叢雲剣の封印を解き、奪い去ってきた麗夜は、皐月家の居間で十六夜から今夜の作戦について聞いていた。

 十六夜の作戦はとてもシンプルで、別段理解出来なかった事など無い。しかも彼が立てた計画通りに行えば何とかなる事も多かったので、信用していないわけでもない。

 しかしその作戦を聞かせられた時、麗夜が最初に言った言葉はこれだった。むしろこれ以外の言葉は、何一つとして思い付かなかった。

 それ程十六夜が立てた計画は、馬鹿馬鹿しい物だったのだ。

 例えそれしか方法がないとは言っても、どう考えても馬鹿馬鹿しい。何度考え直しても、馬鹿馬鹿しいとしか言えなかった。

 なので麗夜は、


「馬鹿じゃない?」


 と全く同じ口調で繰り返す。

 そのあまりにも容赦ない一言に、十六夜は不服そうに唸った。


「仕方ないだろ?」

「あんた死ぬわよ? 神は人間と違って、魂がない。魂がないって事は、憑くモノがないって事よ? 無い物に対する負担…………本当に分かってる?」


 神と人間の違いは多々あるが、その中でも魂の有無は特に大きな違いだった。

 人間には魂があるが、神にはない。魂とは、神にとっての『名前』のような物で、存在を確定する一つの道具。つまり、神であるが故に持ちえない物だった。

 ――――魂は、言うならば器。

 魂のない神の存在はとても曖昧過ぎて、砂が掌から溢れるように、空に逃げてしまうだろう。それでは、完全に倒す事は不可能だ。

 そのため十六夜が神の器――つまり代理の魂となり、それを器ごと直接天叢雲剣で叩き切って消滅させるより他無い。

 だが神の器になるというのは、言うならば、透明な水の入った皿に朱を注ぎ込むような物。魂という器がない神の存在と十六夜の存在が混じり合い、下手したら神の存在ごと消えてしまうかもしれない。

 そこら辺の理屈を、麗夜はさっぱり知らないが、魂の無い神を憑ける事は、自殺すると同義なくらい無謀な事である事は十分理解している。

 だからこそ、十六夜が提示した作戦は馬鹿馬鹿しくて仕方ない。

 馬鹿馬鹿しいと思っていないと泣きそうなくらい、綱渡りばかりの作戦だった。


「お前こそ分かれよ、麗夜。これが、唯一の方法なんだぜ?」


――――――――


 チャンスは一度きり。

 剣が外れても、魂が逃げても、たった一度。

 十六夜が吐き気を堪えるかの様に震えた。

 助けられるのは自分だけ。










天叢雲剣が、大きな弧を描く…………





We hold all the trump cards.
私達ニハ切札ガアルノ


[* bACk][NexT #]
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あきゅろす。
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