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▽
「…………」
そんな人間達を、じっと見つめているモノがあった。
者でもなく、物でもない。一体それが何であるかは、具体的な言葉を用いては表現しきれないだろう。
そのくらい意味の分からないモノ――――姿形はちょうど人間の影に似ているので影と称しておくのが最適であろう存在は、じっと人間達を見つめながら、公園の大地に降り立った。ふありと、大きな鳥が降り立つように。
そこから、はらりと白い羽が零れた。
「…………」
しばらくの間、その影はじっと人間を見つめ続けていた。が、その内変化が起きた。
ゆっくり、ゆっくりと、黒いモヤのようなモノから人間の形へ、影は形を造り上げていく。まるでB級モンスター映画を見ているかのように、非現実さを際立たせて。
そして少し長い時間をかけて、それは完全な人の形になった。
「…………」
子供の遊具が置きっぱなしの砂場に立つ、二十代後半くらいの青年の影。顔ははっきりとしていないが、すらりと伸びたその体躯はまるで豹のようにしなやかだった。
彼は無感動に立ち尽くす人々を見て、口らしい場所をぱっくりと開く。
「我々の存在を確定させるために、我々の人形になってもらおう。…………悪く思うな。最初に我らを人形にしたのは、お前達だ」
そのあまりにも残虐な響きを持つ男の声は、誰の耳にも届かない。静かすぎる沈黙の中で、風だけが存在している。
――――その後、羽は世界中に降った。
明らかな異常現象、毎晩毎晩空にかかる赤い月。これまでの日常は壊れ、非日常が日常になろうと世界を侵食している。
だがそれでも、その事について誰も話さなかった。
誰もおかしいと思わなかった。
それどころか、話す手段――テレビや新聞や井戸端会議やメールや携帯電話など、コミュニケーションと呼ばれる物全てが無くなっていた。
それでも誰も『おかしい』などと思う事はなかった。
ソレもそのはず。彼らの心は、空っぽだった。
季節外れの雪のような羽は、紙が血を吸うがごとく人々の魂を喰らい、蓄えていたのだ。
彼らは今や、感情のないただの生物に成り下がっていた。
影は歌う。
誰も知らない歌を。
誰にも聞こえない歌を。
All was silent around us.
辺リハ静寂ニ満チテイタ
[* bACk]
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