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影 -god-
はじめまして。
そして、
きえてくださいね?
影 -god-
とても穏やかな夜だった。
雨で出来たとは思えない程澄んだ水溜まりには、白い羽と真っ赤な満月が映っている。それを、思わず聞き逃してしまう程小さな風の旋律が微かに震わしていた。
羽が降っていない事を除けば、羽事件当日の日とそう変わらない夜。生産性もなく無意味な一日がようやく終わろうとしていた頃――――静かに、そして確実に異変は訪れた。
「こんばんは」
まるで友人宅に遊びに来たかのような挨拶と共に、もう一つの違いが訪れたのは、ちょうど十二時頃。
影の前に、一組の男女が立っていた。ロボットではなく、『人間』の二人組が。
しかも彼らは、恐れた様子など全く無いようだ。むしろ見下しているような感じがする程、堂々としている。
だが、何より影が驚いたのは、その力。長年多くの人間を見てきた影だったが、これほどの霊力を持った人間は初めてだった。しかも二人。
不敵な笑みで立っている女の方は、白い着物に赤い帯。若干動きやすいように配慮された和装で、少し大人びた感じがするものの、大変似合っている。
一方つまらなそうに影を見つめる男の方は、黒い着物に海色の帯。夜の闇に溶け込むかのように思われるが、その意思の強そうな黒曜石の輝きは決して他の物とは混じらないだろう。
一見対になる色彩でまとめたように見えるが、一つ共通点があった。
それは、ピンク色の毛糸。複雑に編み混み一本のアクセサリー状にしたそれをを、女は髪に、男は手首にしている。
「あんたがこの一連の黒幕……神なのかしら?」
女――――麗夜がとても尊大な口調で尋ねた。
右手に赤い布の播かれた長い棒の様な物を持っているが、重そうな表情は少しもしていない。むしろかなり軽そうだ。
「だろうな…………麗夜、やれ」
影が返事をする前に、男――十六夜が本当につまらない物でも見るように言う。
その声を合図に麗夜は、『着物で動きづらいか弱い女の子の仮面』を脱ぎ捨てて、素早い動きで影の懐に入った。
そして、突進の勢いを乗せて、鳩尾に掌底を叩き込む。
力自体は大した事はなさそうだが、女性というハンデをスピードでカバーしている攻撃は、確実に影の『核』とも言える急所を貫いていた。
だが麗夜の攻撃は、それだけに止まらない。
吹き飛ばした相手が体勢を整える前に、駆け出すと、その途中で赤い布を乱暴にはぎ取った。
そして、中に入っていたものを影の真ん中に突き刺す。
「…………!」
声にならない悲鳴が響きわたった。
赤い布に播かれていたものは、立派な剣だ。名を言うなら天叢雲剣。
その一撃で、影は地面から強制的に引き剥がされる。
そのまま行き場のなくなった『存在』は、地上に降りて新たな媒体を産み出そうとしていた。
「…………」
どのくらい経った頃だろうか。それは長く感じるようで、実は一瞬だったのかもしれない。
影だったモノを包んでいた黒煙の様なものが段々と薄れ、そこに立っていたのは二十代後半の男だった。黒く短い髪を持ち、あさ黒い肌をしている。
青年は最初驚いていたようだが、次第に余裕の笑みに戻る。にやりと、ようやく事態が納得できたかのように。
「……なるほど。貴様があの神童か? 有名だぞ、貴様の事は」
声も人間の男によく似ていた。低いハスキーボイス。
だが麗夜も、こうなる事はすでに予想済だった。なので余裕の表情で答える。
「その通り。じゃ行くわよ!」
そう言って、斜め前方に切った。
――――が、剣の衝撃波は真っ直ぐ飛ぶ。
そして前方にあったブランコを、跡形もなく粉砕し消えた。
麗夜はきょとんとしていた。身構えた影男もだ。
ただ一人、冷静に事の成りゆきを見守っていた十六夜が呟く。
「最悪だな…………元々力の制御が出来ない上に、初めて扱うもんだからコントロールが出来ねぇでいる」
十六夜の呆れたような声は、次の攻撃の爆風で跡形もなく消えた。
影の代わりに羽は歌う。
影の歌った歌を復唱する。
そして新たな夜の歌を歌う。
They were there in all them majesty.
ソコニハ威厳ヲタタエタ彼ラノ姿
[* bACk]
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