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(今は十六夜と遊んでる場合じゃないわ。神とどう戦うか考えないと……)


 別にこれが初めての仕事だとか、そういうわけでは無い。むしろ七歳の頃から仕事をしてきた麗夜は、もうすでにベテランの域にいる。

 だが今まで麗夜が祓ってきたような雑魚霊より、神は遥かに強い。それはもう、比べる事さえ間違っているくらいに。十六夜の手前あんな事を言ったが、正直、どこまで麗夜の力が通用するのか麗夜自身分からなかった。

 麗夜の得手は、一流の職人が作った霊剣。だがそれでさえも、神を相手にするには貧弱過ぎる。


(あたしの霊力も、神には及ばないかもしれない。せめて、神との戦いに耐えれるくらいの力を持った剣が欲しいのに…………)


 何が面白くて、毛糸ばかり買っているのだろう。

 せっかくの思考切り替えも虚しく、結局麗夜の愚痴の矛先は再び十六夜に向いた。

 ――――あの口論から一夜明けた日の午後、皐月家でお昼をいただいていた麗夜に十六夜は「行くぞ」とだけ告げて外に連れ出した。意味が分からなかった。

 でも今夜終わらせるといっていたので、おそらく神を倒すために必要な何かを買いに行くのだと思い、その時は特に不満はなかった。その時は、無かったのだが。


(大体ぶっちゃけ、これが何の役に立つっていうのよ。猫と戦うんじゃないわよ…………?!)


 麗夜がそう苛々しながら見下ろした白い袋の中は、蛍光ピンクの毛糸が溢れんばかりに入っている。

 こんな真夏に毛糸など、いかにも二月中旬のイベントに合わせて今から準備する無器用な彼女、といった感じだ。隣に見た目だけは良い十六夜を連れているものだから、もしも人々に意思があれば、尚更そう見られていただろう。

 だが別に、これから編み物をするわけに買ってきたのではない。羽事件の原因である神を退治しに行く時に、必要となるはずなのだ…………多分。

 麗夜がそうはっきりと断言できないのは、正直退治する麗夜も知らないからだ。本当に、何で毛糸なのだろう。


(つっこんでやりたいし、今この状況で出来るのはあたししかいないんだけどね…………十六夜相手じゃあなぁ……)


 麗夜はこっそりとため息をついた。

 そう、こんな時期外れの物を大量に買っているのは十六夜だった。なのでその事について、麗夜は文句を言わない…………いや、言えない。十六夜はムカツク程頭が良いからだ。


(文句を言ったところで、どーせ軽くあしらわれるに決まっているし! 馬鹿にされるんだ! あ〜、ムカつく! …………ま。それに、何か十六夜なりの考えがある事は分かってるからね〜……)


 分かっていなければ、十数年間も幼馴染みをやっていない。むしろやれない。だが、そんな麗夜にも、一つ分からない事があった。

 その疑問を考えると、心の底のマグマが煮えくり返る思いがする。麗夜は感情のまま、紙袋を持つ手に力を込めた。

 一方、隣で歩いている十六夜は、手に何も持っていない。手をポケットに突っ込んで、爽やか系モデルに選ばれそうなほどの笑顔で街を歩いている。

 そう、麗夜がここまで切れているのは…………

[* bACk][NexT #]
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あきゅろす。
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