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準備 -sword-
何をするにしても、

準備って大切。

受験も、学校も、旅行も、

神様殺しも。











準備 -sword-










 彩り豊かで華やかなデコレーションも虚しい、中心街。活気の全くない大通りは錆びて見え、ただ薄汚いコンクリートが延々と続いている。

 そしてその上を、ただ動く事しか頭にない――――いや、そういう思考しかインプットされていない、数日前までは人間と呼ばれていたロボット達が歩いていた。美しいイルミネーションなど視界にすら入れず、生気の無い顔はまるでこの世の終わりを暗示しているかのようだ。

 言葉にすればたったそれだけの事が、ひどくひどく気持ち悪い。

 まず、歩幅が揃いすぎていた。足の長さが違う大人も子供も、計ったように同じ間隔で足を進めている。

 おまけに、彼らは規則正し過ぎる列を組んで歩いていた。スピードも同じ、向く方向は必ず前。それはまるでRPGゲームの移動場面を彷彿させる。

 ここ数日の事故発生率は、ゼロパーセントに違いないだろう。こんな状況で事故を起こせる人間がいたら、逆に見てみたい。

 警察でさえ真っ青になりそうな、その有り得ない光景は、どれもこれも吐気がする事甚だしかった。


「麗夜、次の角を右だ」


 そんな最悪のデート日和に、十六夜と麗夜は揃ってショッピングをしている。

 若い男女間に有るまじき殺気からいって、決して『楽しく』ショッピングをしていたわけではない。むしろ今にも刺し殺してしまいそうな、ある意味ドキドキする空気が流れている。


(笑顔で買い物誘う十六夜を信用した、私が馬鹿だった……)


 思わず愚痴を言いそうになる口を塞いで、麗夜は半眼で街を歩いていた。隣を颯爽と歩いている十六夜とは、全然違う。

 別に口にしていた所で、普通そんな目をしていたら、例え文句を言わなくとも言いたい事は相手に十二分に伝わっているだろう。目は口ほどに物を言う、という言葉があるくらいなのだから。

 だが怒りにふつふつと沸騰してきた麗夜の頭に、クールダウンという六文字はなかった。むしろ普段でも感情を抑えられない彼女の辞書に、その六文字が書かれている事すら怪しい。


「麗夜、もう少し早く歩け。キリキリ歩かないと、夜になるぞ」


 しかし十六夜は、麗夜の機嫌が悪い事に全く気付いてないふりをして、茶化すようにそう急かす。

 それはいじめるというよりは、小学生の男子がよく好むような『からかい』に似ていた。相手をわざと怒らして楽しみたい少年特有の悪戯好きな色が、彼の青い瞳に映っている。本当に、とてもとても楽しそうだ。

 からかわれている麗夜が、反比例して機嫌が最悪になっていく様子さえも面白がって、唇に薄い笑みを貼る。


「麗夜、言いたい事があるなら口で言ったらどうだ? 口から産まれてきたっていう逸話が残っているお前にとって、言いたい事が言えないのはキツイだろ?」

「…………!」


 麗夜の頬が怒りで上気した。

 口から産まれた云々は、麗夜の減らず口に閉口した祖父の口癖だった。祖父ですら青筋がたつのに、十六夜に言われるともっと腹がたつ。

 だがここで言い返したら十六夜の思う壺だと、麗夜は無理矢理思考を切り替えた。

[* bACk][NexT #]
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