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短冊一枚目
(…………ありえない)


 一旦開けた扉を閉める事も出来ず、声を上げる事も出来ず、私はただただ大きく開いた目を瞬かせた。

 そうして一瞬暗くなった次に見えるものが見慣れたものに変わってくれるのを願ったのだけれど、やっぱり現実はそう甘くないらしい。

 ついでに頬をつねってみようかとも思ったが、止めた。どちらにしても、これは現実なのだから。

 目の前に広がるのは、見慣れた白一色で統一された自室ではなく、何故か緑色が大部分を占めている空間。一昨日信頼が置けるメイドに掃除をして貰ったばかりの筈なのに、床には土と緑色の物体で、見る影もない程汚れている。

 結構綺麗好きな私は、いくら仕事が忙しいとはいえ、ここまで汚したりなんてしない。


(部屋、間違えちゃったのかな……? ううん、そんな筈無いよね)


 自問自答する私の視線の先には、若々とした緑色の物体の下に飾られてる…………というよりは押し潰されている、愛用している調度品の数々。どれもこれも見覚えがあるし、中には私しか持っていない、特注で作らせたモノもある。

 ここは紛れもなく、私の部屋だ。

 ――――つい一日と四時間前まで私の部屋だった空間だ。


「何が起きたの?」

「七夕だよー」


 呆然と呟く私の耳元に、くすくすと意地悪そうな笑い混じりの楽しそうな声が、突然するりと入ってきた。

 思わず無意識で銃を握り締めて振り返れば、良く見知った顔が見下ろしている。

 慌てて振り上げた手を下すが、バツの悪そうな顔は戻せない。彼の瞳はしっかりと私が握っている銃をとらえていた。


(あー……もう、何でいつも急に耳元で話したり、抱きついたりするの! 反射的に殺しそうになっちゃうじゃない!!)


 特技と言うか職業病と言うか何と言うか、私は無意識で銃を握り、無意識で人を殺してしまう。少しでも殺気を感じればその対象の急所を、殺気を感じなくてもある程度ヤバい所まで狙ってしまうのだ。

 それは反射神経のようなもので、戦場では大いに役立つのだが、日常では何にも役に立たない。というか、今日みたいな事が起きる度に嫌な冷や汗が流れる。

 それでもまだ安心していられるのは、相手がそうそう簡単に殺されてはくれないようなレベルだからだろう。

 彼――私の兄、リキルジェードは私よりも殺しが上手い。それはもう、私でさえも、勝つどころか相討ちになれば良いと思わせる程に。だから彼は私の反射的な一撃くらい、軽く避けてしまう。

 それなら反射で殺す事を改めなくても良いか、と思ってる内に、ずるずるとそれが癖になってしまった。言い訳をするみたいだが、昔はまだここまで無意識にする事はなかったのだ。なのに、今ではもうこの通り。

 ――――慣れって、怖い。

[NexT #]

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