▽ 「…………生かすモノは、何?」 彼は、私の問いには答えなかった。 ただ一言、ぽつりと呟く。それが答えかどうかすら知らない、今現在の私に。 「リィヤルリィセ」 そうだ。私は常に乾いていた。 この生活に不満などないし、私に合っていると思う。 今不快に感じている事でさえ、いつかは慣れると分かっている。 だが、ただただ乾き続けていた。 しかし今、目の前にいる人を見るだけで私の心に水が溢れ出す。 ゆっくり、だけど確かに、全てが満たされていく気がする。 あんな陳腐な言葉に心を奪われたわけじゃない。そこまで安い女じゃないし、自分で言うのも何だが、一目惚れするような性質(たち)じゃない。 でも、彼は私の渇いた心に水を垂らしてくれた。 一滴でも、とても優しくて温かい水を。 「…………私、決めたわ」 その言葉は、一秒前より確実に強い意志を湛えて。 「私も『機関』に入る」 驚きと喜びを滲ませた、柔らかな微笑み。 それを見た時、私の生きるための条件全てが充たされた。 そう。その日私は、どんな刺激にも、恋人にも、宝石にも、服にも変えがたい物を見つけた。 ある女が生きるための唯一を見付けた瞬間 それは、彼女が初めて心から男を愛した日。 ――――彼女の乾いた人生が満たされた『ある日』。 [* bACk][NexT #] [戻る] |