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『糸の切れたマリオネット』


あれから早いもので一ヶ月が経った。一ヶ月。もっと長い間一緒にいる気がしていたが、実際はまだその程度しか経っていない。いろいろあったから余計そう感じるのかもしれないが。イオが来てから、俺の生活は明らかに変わったと思う。

自分の帰りを待っていてくれる人がいる。そのことがとても嬉しい。

一人暮らしを始めてからは、その快適さと解放感に親元を離れて正解だったと思ったけれど、この1ヶ月間はそれ以上に充実していて、今の暮らしがさらに好きになった。
何よりご飯が美味い。一人の時はとりあえず食べ物を腹につめるって感覚だったが、今はイオの手製の料理だし、何気ない会話をしながらの食事は格別に美味かった。
イオといることが心地よい。二人暮らしが、今となっては当たり前の日常と感じられるほどに。

「真紀、ご機嫌だね」

「そっちこそ」

隣を見ると、とろけそうな笑顔を返された。イオの方こそご機嫌だ。さらに気分が良くなる。鼻唄でも歌い出しそうだ。

「真紀が楽しいと、俺も楽しい」

そんなことを言って、自然に俺の手をとって歩き出す。あまりにも自然すぎて一瞬なんだかわからなかったくらいだ。
ここは往来だとか、なんで恋人繋ぎなんだとか、いろいろ言ってやりたいことはあったが、イオの横顔を見たらなんだかそんな気も失せた。

「…ほんと、好きだよなコレ」

「真紀だから」




雨は相変わらず止まない。
けど、そんなこと気にならない。

少し早くなった鼓動に動揺しつつ、それでも家に着くまでの数十メートルは手を離そうとは思わなかった。






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あきゅろす。
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