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『糸の切れたマリオネット』


俺が密に決意を固めていると、繋いでいる手が軽く引かれた。
何事かとイオを見やる。

「そろそろ寝よう。真紀は明日学校なんだから」

「ああ、そうだな」

室内に戻り時計を見ると、目を覚ました時に見た時間から1時間近くも経っていた。明日は一限から必修科目の講義があるから寝坊していられない。

再び繋いだままの手がちょいっと引かれる。

「ん?」

「寝よう」

そう言うわりには離されない手を疑問に思っていると、突然強く引かれイオにベッドへ転がされてしまった。

「な…!?」

なんだこの状態は………!

イオの突拍子もない奇行に固まっている俺に構わず、当のイオは平然と俺をシーツに包んでいる。そうして俺はイオに抱き込まれた。

「……イ、イオ?これはなに」

「さてなんでしょう」

めちゃくちゃうろたえている俺とは対象的にイオはとても楽しそうだった。
ベッドはそこそこ広いから、べつに二人で寝るのは構わない。だがしかし。この状況はマズすぎる。添い寝どころではない。ちょっと待てイオどこで覚えたこんなこと…―――!?

混乱の中、それでもやんわり抵抗してみるが、イオに腕の力を強められて撃沈した。自分の心臓がばくばく煩い。

「さっき、真紀とこうしてて温かい気持ちになったから」

さっき…とは、充電中のイオに俺が触れてしまった後のアレだろうか。なるほど、と納得しかけて、しかし首を捻る。それとはだいぶ意味合いが違うような気がするのだが……。
遠慮はなしなんでしょ?と楽しそうに言うイオに、なんだか抵抗する意思は萎えてしまった。嫌じゃないし、イオは満足しているし、まあいいかと許してしまうあたり俺はイオに弱い。


「…あとで真紀に、聞いてほしいことがあるんだ」

「聞いてほしいこと?」

「うん」

突然イオが改まった感じで話すので、何事かとそちらへ首を傾ける。
今はだめなのかと不思議に思ったが、イオが後日改めて話したいということであればそれは構わないと思った。

「わかった。話したくなったら言って。いつでも聞くから」

「…ありがとう。」

おやすみ、と頭上から優しい声が降ってくる。それに同じように返して、俺はおとなしくイオに抱き込まれたまま意識を手放した。

クーラーが効いている室内で、それでも俺だけは困ったことに暑かった。





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