『糸の切れたマリオネット』
3
小さなため息で、静謐な夜の空気が微かに震える。
「本当に…敵わない。真紀といると、俺どんどん我が儘になって…ちょっと怖いな」
そう言って、イオは悪戯っ子みたいに笑った。
そのまま、しばらくお互い無言で掌の温度を感じていた。互いの本音伝えた後の今は少し照れ臭くて、二人とも再び夜空に視線を投じていた。
同じ気持ちだった。
俺はキラキラと瞬く星を見つめながら、先程のイオの言葉を思い起こしていた。
イオも俺と一緒にいたいと、思ってくれていた。その事実が何よりも嬉しかった。イオの口からそのことを聞けたから、なおさら嬉しい。
しかしイオは、その感情でさえ忌み抑えようとする。人であれば自然なことなのだが、イオはそれが我が儘であると自分の劣悪さを責めていたのだ。
確かに、アンドロイドであるイオと共に居続けることはとてもリスクのあることではある。ただでさえ今は場所が割れていて、相手方がいつ何を仕掛けてくるかわからないという緊張感で日々心労があることは否めない。――しかしそれが何だというのだ。俺は、イオの力になれるのなら、そんなことどうだっていい。たしかにはじめはとても戸惑ったけれど、それでも今の生活を苦と感じたことはなかった。だから…イオ、それは我が儘だなんて言わないんだよ。だって、俺はこれっぽっちも迷惑なんて思っていないんだから。
「ありがとう…、話してくれて」
あらためて礼を述べた。
「変な我慢とか遠慮はこれから無しな。イオには、……人間らしく…生きてほしい」
人間らしく生きる。…なんだか妙な言い回しになったが、それ以外に上手い表現が見つからなかった。
イオは一瞬ぽかんとしたが、俺の言いたいことが伝わったようで至極嬉しそうに笑った。
アンドロイドの定義なんて知らない。だから、俺の流儀でやってやる。
アンドロイドを機械として、従者として扱う者からすれば、俺のすることはひどく滑稽なのかもしれない。でも俺は、イオに一個人として“生きて”もらいたいんだ。俺にとってイオは友達で家族で仲間だ。だからこそ、俺はイオの幸せを願いたい。心から。
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