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『糸の切れたマリオネット』


しばらくの間、沈黙が流れた。
まだイオは動揺を隠せないようだったが、表情に先程のような曇りはないように見受けられる。ただ、今はどう言うべきかと迷っているようだった。
イオが口を開くのをただ辛抱強く待つ。





どのくらい時が経ったか。
実際にはそこまで経ってはいないだろうが、待つには十分な時間が過ぎただろう。

「言いたくないなら、いい」

「……っ」

聞きたい気持ちもあるが、無理強いするつもりは毛頭ない。
話したくないのならばそれはそれで構わないのだ。ただ、無理だけはして欲しくない。その気持ちだけは知っていて欲しかった。それが伝わったのなら、…今はそれでいいと思った。

不安そうな顔をするイオを安心させるように微笑みかける。そんな俺にイオは強く首を左右に振った。

「ごめんねイオ。責めるつもりじゃなくて……。…でも、ひとりで溜め込むなよな。遠慮されるのは辛い」

そう言い残して俺は室内へと体を向けた。
窓のサッシに手をかける。

―――それをスライドさせるより早く、イオが俺の手を掴んだ。

「……、」

「…………」

驚いてイオを見ると、一瞬俺から目線を反らす。しかし次の瞬間には真っ直ぐにこちらを見据えた。
二人の視線が絡まる。
その瞳に、もう迷いはない。

「…ここに来て、いろいろなことを知って、毎日がすごく楽しいんだ」

イオは言葉を探しながらゆっくりと話し始める。
俺はそれに相槌をうちながら静かに聞いた。

「とても充実してる。こんな機会をくれて真紀にはとても感謝してる。これからも、もっともっと見て、聞いて、触れて、この世界を知りたいと思う」

「うん」

「二人でたくさん話したり、この間みたいにどこかへ出掛けたり、…真紀との思い出を、もっと増やしたい」

「うん」

「真紀と…、ずっと一緒にいたい」

「…、うん…っ」

握られた手の平に、ぎゅっと力がこもった。それに応えるように俺もイオの手を同じ力で握り返す。

初めてイオの本音を垣間見た気がした。その一言一言はとても優しくて温かくて、嬉しさで本気で泣きそうだった。





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