『糸の切れたマリオネット』 4 * * * * * * 「この世界は素晴らしいものが溢れているね」 俺の言葉に真紀がこちらを向く気配があったが、視線はそのまま空へ縫いとめて、更に言葉を紡いだ。 「空も、海も、緑も、人も、皆とても美しい」 生命とはなんと尊いのだろうか。 ここへ来てからというもの、日々それを実感している。彼等は皆、一度とて同じ表情を見せない。それがとても面白いと思った。 生きているとは、なんと素晴らしいことなんだろう。 「…イオ?」 黙り込んだ俺に、真紀が心なしか心配そうに問い掛けた。それに無言で笑いかけると真紀も一瞬キョトンとしたが、つられるように照れ臭そうに微笑んだ。そして視線は再び空へ向けられた。 真紀に名前を呼ばれることが嬉しい。 イオという名を貰ったその日から、俺の中で何かが変わった。それはとても大きく、絶対的な変化だった。俺という存在を認められたような、価値を見出だされたような、それは“救い”だった。それだけでもう十分だと、そう思った。……そう、思ってた。 けど……―――― 「……真紀はズルイ」 「え?!」 ボソッと告げた俺の非難に、真紀が過剰に反応した。急な話題の転換に心底びっくりした様子で、そのうえ俺の呟きの内容に慌てたようだった。 思わず口許が緩みそうになるのを即座に制御する。こういう点は正確だから表情には一切出ていないことだろう。 真紀は覚えているのだろうか。眠りにつく前に自身が告げた言葉を。 あんな好意を他者から寄せられたのは初めてだった。それは心に優しく溶けるようで、ポッと明かりが灯ったように温かい気持ちになった。 あの言葉を聞いたとき、とてもとても嬉しくて、少し……苦しかった。 予想以上に自分が欲深くて本当に驚いた。 俺も真紀が好きだ。とても大切だと思う。だからこそ、絶対に迷惑はかけたくないのに……。 「真紀といると、俺は我が儘になってしまいそうだよ」 「………?」 今度は自嘲気味に呟いた俺に、真紀は本当に戸惑っているようだった。 なんだろう、この気持ちは。次から次へと溢れ出してうまく制御ができない。こんなこと初めてだ。 どうしたらいいかわからないよ、真紀。 * * * * * * [*前へ][次へ#] [戻る] |