『糸の切れたマリオネット』 4 俺の話を聞くと、男は手を自分の鼻先に近付けクンクンとし出した。 ……なんだろうこの人は。天然なのかな…。 すると、男は俺がやった通りに猫へ近づく。 「………」 「…………」 じりじりと慎重ににじり寄る姿にツッコミたい気もするが、ここはまあ触れないでおく。 男が手を近づけると、大人しかった猫は急に毛を逆立て、警戒心をあらわにフーフーと威嚇を始めた。どうやら相当嫌われたらしい。 「…ダメみたいだ」 そんな寂しい背中を見せられると、なんだか不憫に思えてくる。 …………て、大の大人が二人して何やってるんだ? なんとも声をかけづらく、でも家に帰りたくなってきた俺は、どうするべきか逡巡していた。 しかし、ふと目に入った男の手を見て体が凍り付いた。 「え!?ちょっと、あんた何それ…!!?」 初対面の、しかも自分よりも年上だろう男相手に敬語が抜けてるとか、そんなことは今はどうだっていい。 男の手は、街灯と月光しかない薄暗さでもわかるくらい酷い有様だった。 手の項から手首にかけて、黒いものがベッタリとついている。おそらく、血だ。 「酷い怪我じゃん!猫も容赦ねぇなぁ…。てか、痛くないわけ、それ」 暗くてはっきりとは視認できないが、それでも顔が引き攣るには十分な大怪我だ。痛くないはずがない。 俺の慌てように対して、男はなんでもないようにポケっとしている。痛く……ないのか? 「とりあえず来て!消毒するから」 何も言わない男に焦れ、俺は後先考えず男の負傷していない方の腕を掴み歩き出した。 俺達が動き出すと、足元にいた猫もついて来る。…お前はこなくていい。 [*前へ][次へ#] [戻る] |