[通常モード] [URL送信]

『糸の切れたマリオネット』


俺の話を聞くと、男は手を自分の鼻先に近付けクンクンとし出した。
……なんだろうこの人は。天然なのかな…。

すると、男は俺がやった通りに猫へ近づく。

「………」

「…………」

じりじりと慎重ににじり寄る姿にツッコミたい気もするが、ここはまあ触れないでおく。

男が手を近づけると、大人しかった猫は急に毛を逆立て、警戒心をあらわにフーフーと威嚇を始めた。どうやら相当嫌われたらしい。

「…ダメみたいだ」

そんな寂しい背中を見せられると、なんだか不憫に思えてくる。
…………て、大の大人が二人して何やってるんだ?

なんとも声をかけづらく、でも家に帰りたくなってきた俺は、どうするべきか逡巡していた。
しかし、ふと目に入った男の手を見て体が凍り付いた。

「え!?ちょっと、あんた何それ…!!?」

初対面の、しかも自分よりも年上だろう男相手に敬語が抜けてるとか、そんなことは今はどうだっていい。

男の手は、街灯と月光しかない薄暗さでもわかるくらい酷い有様だった。
手の項から手首にかけて、黒いものがベッタリとついている。おそらく、血だ。

「酷い怪我じゃん!猫も容赦ねぇなぁ…。てか、痛くないわけ、それ」

暗くてはっきりとは視認できないが、それでも顔が引き攣るには十分な大怪我だ。痛くないはずがない。

俺の慌てように対して、男はなんでもないようにポケっとしている。痛く……ないのか?

「とりあえず来て!消毒するから」

何も言わない男に焦れ、俺は後先考えず男の負傷していない方の腕を掴み歩き出した。
俺達が動き出すと、足元にいた猫もついて来る。…お前はこなくていい。







[*前へ][次へ#]

4/15ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!