『糸の切れたマリオネット』
光と闇。
一面に広がる青。
これは空?
それとも海だろうか?
目を凝らすと、きらきらと光を反射して水中を行き交う色とりどりの魚を捉えた。
ああ、ここはあの水族館だ。
はじめてイオと来た場所。
薄暗い館内には大小様々な水槽があり、たくさんの生き物が自由に泳ぎ回っている。
しかし、あの時と違って人っ子ひとりいない。
「…イオ?」
姿がみえないイオを探して、通路を駆けた。
しかし、進めど進めど求める人物は現れない。
ひとりぼっちの心細さと一抹の不安に息がうまくできなくなる。
それでも無我夢中で駆ける。
暫くすると、突然ぽっかりとあいた広い空間に出た。
天井が高く、やはり一面の青。
巨大な水槽がドーム状のホール内を占め、まるで海の中にいるような錯覚をおぼえた。
その中に、一人の男が立っていた。
「イオ!」
嬉しさに迷わずその存在に駆け寄る。
手を伸ばし、彼の手をとった。
握り返される手の平。
……しかし、その手はとても冷たく、また、それは俺の知らないものだった。
この手を俺は知らない。
「言っただろう?あいつは放っといてもこっちへ帰ってくるって」
イオじゃない。
イオはこんなふうに笑わない。
「あいつを返してもらう。
じゃあな人間。永遠にさよならだ」
そう言って、あの冷たい瞳の男は酷薄な笑みを浮かべた。
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