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『糸の切れたマリオネット』



泣くのかな、と思った。


ごめんねと繰り返し謝るイオが、とても弱々しく見えた。
申し訳なさそうに歪む表情がひどく痛々しかった。

だから、なんとなく、その体を引き寄せていた。


「…っ、……?」

イオは身じろぎしたが、腕の力を少し強めると何も言わずされるがままに従っていた。ゆっくり背中を摩ると、強張っていた体から少しずつ力が抜けていった。

外から思い出したように虫や蛙の鳴き声が聞こえてきた。そのまま暫く、お互いその夏の音に耳を傾け、無言で時を過ごした。




「……何で笑ってたの」

肩に顔を埋めているイオがぼそりと呟いた。

そちらへ少し顔を傾けると、上体を上げたイオと目が合った。澄んだ碧の瞳は真っ直ぐに俺を捉え、落ち着きを取り戻したようだった。

「嬉しくて」

そう言いながら、自然と頬も緩んでいた。
俺の答えにイオがきょとんとする。それがなんだかおかしくて声を出して笑っていると、一瞬理解不能といった顔をされたが一緒になってイオも笑いはじめた。

「なんだそれ」

「さあ、なんだろうね」

二人でひとしきり笑うと、イオが俺の上から身を引いた。
差し出された手を取り、俺も起き上がる。

時計を確認すると、まだ時刻は夜中の3時だった。
思いのほか明るい外が気になり、俺は窓際に歩み寄りカーテンを引いた。

幻想的に瞬くパノラマ。
窓一面に写る星空に、言葉を失う。

都心が近いこの場所も、この時間にもなれば皆寝静まり静かな夜が訪れる。余分な光がない街には月や星の優しい光だけが降り注いでいた。
その美しさに吸い寄せられるように二人でベランダに出る。

「綺麗だね…」

「ああ…」

顔を見合わせ、どちらからともなく微笑み合った。
胸の内で燻っていた不安も寂しさも、一瞬で吹き飛ぶようだった。




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