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『糸の切れたマリオネット』


「……っ!?」

突然の衝撃とともに体に鋭い痛みが走った。後頭部を強く打ち付けたようで、痛みにうまく思考が働かない。
一瞬の出来事に成す術もなく、体はフローリングの床に押し付けられていた。肩や腹部に感じる強い圧迫感に顔が苦痛に歪む。押し退けようとするが体はびくともしなかった。乗り上げられた腹部に、ギリ、と更に体重をかけられる。口からは声にならない呻きが漏れた。


イオ、


呼吸がままならない状態で、それでも必死に名前を呼ぶ。しかしそれはどれも上手く音にできない。

うっすらと開けた視界に写るイオの顔は無表情で温度が感じられない。何も写していないその瞳に恐怖心が芽生えた。
苦しさから、眦からは生理的な涙がこぼれる。



突然、イオの力が緩んだ。

ようやく満足に吸い込めた酸素に思わずむせる。激しく咳き込んで、乱れた呼吸を何とか落ち着かせようと試みた。暗闇に、浅い呼吸を繰り返す音だけが空気を震わせた。

「っ…イオ……?」

体を押さえ付けていた圧迫感が全て取り払われる。
固くつむっていた目を恐る恐る開くと、一筋の涙が顔の横を伝い落ちた。

「真紀………」

俺の目元をイオの手が掠める。
低めだが、温かい指先が優しく雫を攫った。

……温かい。

その事実に俺は心の底から安堵を覚えた。
さっき、一瞬だったけど触れたイオの頬は、まるで無機物のように冷たかった。質感が人肌と違(タガ)わないために、そのことが打ち付けた頭への痛みより何より衝撃だった。

「ごめん、真紀……俺…」

イオの顔は夜目に見ても明らかなほど蒼白だった。先程とは打って変わって人間らしい表情に、さらに安心する。
無言で見つめ笑む俺に、イオはますます表情を強張らせた。怪訝そうな、不安そうな、申し訳なさそうな、複雑な表情をするイオが不謹慎だが無性に嬉しかった。

「真紀…?」

「ごめんごめん、大丈夫だよ。何でもない」

自分に覆いかぶさって心配そうに覗き込んでくる体を軽く押して退けようとしたが、イオはそれを許してはくれなかった。思わず溜め息がこぼれたが、まあいいやと諦めることにした。

「…充電してたんだ?」

俺の問い掛けにイオは一つ瞬きをして、次いで苦い顔をした。

「俺に何かした?」

「うん、…ちょっと触った」

イオはさらに苦い顔になった。

「…充電中は俺達が最も無防備になるんだ。だから、何らかの外的要因があると自衛本能が働いて…ああいうことになる。話し忘れてたね。痛かったでしょう、…ごめんね」




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あきゅろす。
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