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『糸の切れたマリオネット』


イオの言葉に安堵したのと、頭を撫でられる心地良さから自然と瞼が重くなり始めていた。映画が途中ではあるが睡魔には敵わない。
「寝ていいよ」という声が上から降ってくる。うとうととまどろみはじめた俺に、イオは撫でていた指を俺の髪に絡ませ柔らかく梳いた。
イオの優しさは心地よい。包み込まれるような安堵感が、俺の中に渦巻く不安な気持ちをいつの間にか和らげてくれる。

「俺、イオのこと好きだな」

思わず、感じたままをそうぽつりと呟いていた。

一瞬イオの動きが止まったことを不思議に思ったが、眠気にうまく頭が働かず、まあいいやと深く考えることはやめにした。
再び再開された動きに充足感に満たされ、うっとりとした気持ちになる。

「だから…、好きなだけここにいていいよ」

ずっとここにいればいい。

暫く匿ってほしい、とイオは言っていた。ひょんなことから始まったこの共同生活。いつまでという期間はとりわけ決まっているわけではないが、しかしそれは一時的なものに変わりはないのだろう。いつの間にかイオがいる生活が当たり前のように感じられていた。だから、あの男が現れた時、改めてその事実に気づかされたのだった。
イオがどう思っているのかはわからないし、今後どうするつもりなのかも聞かされていない。イオの言う暫くが一体いつまでなのか、実は勇気が出なくて聞けないでいる。なんとなく、聞くのが怖い。だから自然とその話題を今まで避けていた。
俺は、イオがここにいたいというのなら二つ返事で了承する。いろいろと不安はあるが、俺もいて欲しいと思うし。…どうしてここまで思うのかはわからないけれど、友達…、というよりは家族のように感じているのかもしれない。


徐々に思考が途切れはじめた。意識がふよふよと眠りの淵をさ迷っている。至福への誘いに、もう目を開けられそうもなかった。
だから、ありがとう、と言ったイオがその時どんな顔をしていたのか、知ることは出来なかった。






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あきゅろす。
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