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『糸の切れたマリオネット』


恥ずかしさで挙動不審に視線をさ迷わせながら言葉を探していると、ふいに側でイオが動いた。
思わず顔をあげる。思いの外、イオの顔が近くにあり心臓が跳ねた。
イオがベッドに背中を預けるように寄り掛かることで、至近距離で見つめ合う形になった。寝転がっている俺には動きようがなく、そのまましばらく固まっていた。

「今度は動かなくなって、真紀は面白いね」

イオが柔らかく微笑む。
至近距離の美人の笑顔はある意味心臓に悪いと初めて知った。そしてイオの微笑にドキドキと鼓動を早めている自分に内心慌てる。

「……なんでもないよ。まったく、イオってけっこう意地悪なのなっ」

動揺を押し込めてぶっきらぼうにそう言うと、イオはますます楽しそうに笑った。

「イオー……」

「あはは、ごめんごめん。これで許して」

責めるような視線を向けると、イオは俺の口元にポッキーを寄越した。迷わずそれにパクつく。
なんだか知らないがイオは餌付け(?)がひどくお気に召したらしく、たまにこうやって俺に食わせようとする。初めは嫌がってはみたが、最近はもう恥ずかしいとか体裁がどうとか気にしなくなった。食わせてもらうのも悪くないとか思いつつある。相手がイオだからそう思うのかもしれないけど。

そうこうしている間にも映画は佳境に入っていた。主人公が愛する女性を救うために敵に立ち向かっている。勝負は敵が優勢で手に汗握るシーンなのだろうが、もう気分が逸れてしまった。イオも同じようで視線は俺に向いたままである。

「…イオ、楽しいか?」

俺の問いにイオは迷いなく「楽しいよ」と言った。
内容はまあ、見ている間はそれなりに楽しめる作品だろう。しかし、俺が心配なのは映画がどうだということではない。

あの男が現れて以降、極力イオが外へ出ないようにさせていた。アパートの敷地内くらいなら許しているが、この前のような外出は水族館以降していない。場所が割れているのだから無意味かもしれないが用心に越したことはない。何より俺が不安だったのだ。
本当はもっとイオにいろいろ見せてあげたい。希望も叶えてあげたい。強く思う。でもそれ以上に、イオを失うことが怖い。

顔のすぐそばで風を感じた。次いで、後頭部に温かい感触。
優しい手の平に頭を撫でられ、驚いてイオを見る。視線が絡むと、イオは穏やかに微笑んだ。

「真紀と一緒なら、なんだって楽しい」

まるで心を見透かされたような気分だった。労るような優しい手の動きは、沈み気味だった俺の思考を掬い上げるようだった。






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あきゅろす。
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