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『糸の切れたマリオネット』
刹那の逡巡と芽生えはじめた何か。

あの男が現れた日から数日が経った。
その間、取り立てて危惧していたことは起こらず、俺達はいつも通りの日常を送っていた。……内心は、いつまたあいつがイオを連れ戻しに来るかと気が気じゃなかったんだけど。





今日は平日だがとっている講義はなく、珍しくバイトもなかった。それでも外出はせず、二人で朝からずっとDVD鑑賞をしている。
昨日バイト帰りに大量にレンタルしてきたのだ。ジャンルはアクションからコメディーまで様々で、俺が面白そうだと思ったものを適当にぽいぽい選んで借りてきた。
今観ているのは、以前テレビなどで話題になっていた洋画。俳優やらセットやらなにやら金がかかっていて豪華だが、いまいち内容が盛り上がりに欠けあまり集中できずにいた。
思わず漏れ出た欠伸を噛み殺す。

ふと、傍らを窺う。
ベッドの上に俯せに寝転がっている俺の横で、イオは行儀よくフローリングに座ってテレビ画面に顔を向けていた。

無意識にその横顔を見つめる。一定間隔で長い睫毛が上下するのをぼうっと見ていた。

イオは綺麗だ。

深く何も考えず、ただそう思った。何気ないひとつひとつの動作が美しい。

しばらく無遠慮に見つめていると、突然イオが視線をこちらへ向けてきて心底びっくりする。バッチリ目が合い、見つめていたことがバレたと慌てた。

イオが小さくクスリと笑う。

「そんなに見られてたら恥ずかしいな。どうかした?」

「えっ、あ、えっと…その…、」

まさか、綺麗だと思って見惚れてましたなんて………言えるわけがない……。




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あきゅろす。
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