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『糸の切れたマリオネット』
庶民と王子様。





簡素なアパートの2階、狭い廊下を奥へ歩いて行くと、最奥の角部屋が俺の家だ。手頃な家賃で駅からも近い。中も案外綺麗で、国立大学生が住むにしてはそう悪くない好物件だ。


男を連れ玄関まで来ると、さすがに後悔に苛まれる。
素性も知れない人間を安易に入れていいものか。

少し迷ったが、意を決して鍵を開ける。やはり抵抗はあるが、それよりも今は怪我の治療が先だ。

「入って」

見かけによらず室内は広い。というより、もともと私物が少ないから男が二人入っても十分余裕がある。

「適当にそこら辺座って」

男にとりあえず指示を出し、常備している救急箱を引っ張り出す。
救急箱と言っても、絆創膏とか消毒液とか市販の風邪薬とか、ほんと最低限のものしか入っていない。あの様子では応急処置くらいしかできないだろうが、そのままよりはいくらかマシだろう。

必然なものをいくつか取り出し、男の方へ向き直る。




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