『糸の切れたマリオネット』
結び目と綻び。
有り得る話だった。
イオという存在がいる以上、他にもアンドロイドが造り出されているだろう可能性。
今でこそ感じさせないが、この男の放つ雰囲気や些細な違和感は、イオと初めて出会ったときの感覚と似ている。ただこいつの場合、若干それが強い。見た目こそ人間に近づけてはいるが、人間らしさが大幅に欠如しているような気がする。口は悪いし、態度も尊大で感じ悪いけれど、それとはまた違った何かが…。
「俺がアンドロイドで、何か不都合でも?」
「あ…いや…、」
まじまじと見つめていた俺に男は迷惑そうに顔を歪め、煩いとばかりに片手で掃う動作をした。
人間味がないだのと表現したことを撤回したくなるくらい、本当に性格が宜しくない。頬の筋肉がひくりと引き攣るのを努めて耐える。
「とにかく、イオは絶対に渡さない。悪いけど、お引き取り願えますか」
相手が国家機密級の機関であるとか、こちらの立場の方が格段に弱いだとか、明らかに不利な状況であることは解ってはいた。それでも、やはり安易にイオを委ねることだけはしたくない。絶対に。
額に冷や汗が伝うのを感じた。
「…いいだろう」
「はっ?」
いきなりの急展開に声が裏返ってしまった。今すごく間抜け顔をしている気がする。
「今日は見逃してやる。データ収集にもなりそうだしな」
「ど…どういう風の吹きまわしだよ」
「別に。…それに、あいつは放っといても帰ってくるし、な」
「へ?」
意味がわからない。
しかし冗談を言っているようにも見えない。
いきなり来て引き渡せだとか、そうかと思えば見逃してやるとか。それに、イオが自ら研究所に戻るというのも解せない。
一体何を根拠に……。
「ちょっと待てよ、何でイオが…」
「ひとつ忠告しといてやる」
男はその端正な顔に酷薄そうな笑みを浮かべた。
先程からこちらの問いは全て無視で、いい加減短い気が爆発しそうだが、それでもこの曖昧で不安定な状況では黙って相手の言葉を待つほかない。
爪が食い込む寸前で拳を握り締め、視線だけは男に突き刺すように向けた。
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