『糸の切れたマリオネット』
6
そのまま再び睨み合いが続き、さすがにくじけそうになった時、男が先に視線をそらすことでその空気が緩められた。
「…イオ、とは、アレの名前か」
男の瞳に一瞬別の色が滲んだ気がして、俺は目を瞬かせた。
垣間見た情に気が緩みそうになったが、しかし少しでも隙を見せたらイオが連れていかれてしまいそうで、気を引き締め直して突き放すように答える。
「アレ呼ばわりすんなよ。だいたいあんた達が生み出したんだろう」
「契約をしたのか」
「…契約?」
なんのことだ。
覚えのない言葉に俺が眉根を寄せると、男は探るように這わせていた視線を一つ瞬きすることで遮断した。
再び開いた時には、先程までの瞳の揺れが嘘のように、今の男には何の色もない。
「引き渡してもらおうか」
ぞっとする程に何も写さない。
まるで体温を失ったように。
機械的に動き差し出された手の平に、自然と意識が向く。
感情を悟らせない、貼付けたような表情が無機質さを増長させる。
何かが違う。
掛け違えたボタンのように、付き纏う違和感。
それは…まるで……
「あんた…アンドロイドか…?」
思い至った可能性に驚愕で見開かれた目に写った男の微笑みは、一寸の狂いもなく美しく秀麗で、まるで飴細工のように繊細で甘美だった。
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