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『糸の切れたマリオネット』


そのあとも時間をたっぷりかけて館内を回り、定番のイルカのショーも見て水族館を後にした。
ショーを見ている時のイオはすごく楽しそうにはしゃいでて、見た目は自分より年上なのにちょっと可愛いななんて思ったり。

「バスまでまだ時間があるな。せっかくだし、本物の海も見ていくか」

潮の香りに向かって二人で歩き出す。バスから見た海岸へなら、少し歩けば行けるはずだ。







久しぶりに見た海はやっぱり広大で、思わず数秒間見つめてしまった。一定に繰り返される波の音が耳に心地よい。

互いに無言のまま海岸に沿って歩く。真剣な眼差しで水平線に視線を投じるイオも、海に魅入られているようだった。

「海を見ていると、不思議な気持ちになる…」

そうやって呟くイオは何処か遠くを見ていて、その綺麗な横顔に声を掛けるのはなんとなく憚られた。


たまに、イオはこういう表情をする。そして、ずっと遠くを見据えるように見つめる。思い詰めたふうは無いから干渉しないようにしているが、俺が見ることのできない世界を見ているようで少し寂しい気持ちもあった。

何を思っているのだろう。


ふと、イオの今の状況を考える。
人工知能がどれほどのものかは解らないが、イオは…好ましく思っているのだろうか。

研究所から逃げてきたと彼は言った。それは少なからず嫌悪や負の要素があったからだろう。何かを感じて独断で、リスクを負ってまで逃げ出す道を選んだ。何がイオをそこまで追いやったのかは解らない。しかし、それに開発側の人間が絡んでいる確率は高い。その者達が嫌悪の対象であるならば、イオは人間をどう思っているのだろうか。自分を生み出した者を。

気になることはたくさんある。けれどそれをイオに尋ねていいものか。
研究所を逃げ出した経緯を、イオは一度も口にしていない。本人が話さないことを言及するなんてしたくない。


俺にできることは少ないけれど、ただイオが、生み出されてよかったと思ってくれたらいいなと思う。







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あきゅろす。
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