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『糸の切れたマリオネット』


「あっ、すみません。」

イオに引っ張られるがままに変に方向転換をした時、近くにいた人とぶつかってしまった。
咄嗟に謝罪した俺に、気を悪くしたふうもなく相手は「大丈夫ですよ」と笑いかけてくれた。

ぺこりと頭を下げてその場を去る。

「……あれ?」

「どうしたの?」

「…?いやぁ、なんでも。それより危ないだろ!」

横目でイオを睨め付けると、気まずそうに小さく「ごめん」と謝った。

それでも手は離されることはなく、どうにか離してもらおうと引っ張り返したりしたが、更にギュッと握られて抵抗を封じられてしまった。
…ちょっと眩暈がした。

高い天井まで繋がる巨大な水槽。その中を、先程よりも大型な魚達が自由に泳ぎ回っている。
そんな水槽にイオは夢中で。

「イーオ、手、離して」

先程から周りの視線が気になって仕方ない。ここにはそこまで人数はいないが、明らかに俺達に気づいた様子の訝しむ気配がひしひしと感じられた。冷や汗が出る。

「なんで?」

「なんでって…」

周りを示すように視線を配ると、父親と手を繋ぐ子供や腕を組んでいる恋人を捉えた。
もしかして…

「イオ、男同士は手繋いだりしないんだよ」

ちょっと呆れた感じに指摘すると、「そうなの?」と小首を傾げつつも離してくれた。

「楽しそうなのに」

「うーん…」

臆面もなくそんな笑顔で言われたら何も返せない。
イオは驚く程頭がいいのに、こういう些細なところは結構アバウトだ。頼むからインプットしておいてくれよ!





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あきゅろす。
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