『糸の切れたマリオネット』 2 そう、この目だ。 純粋な興味。俺が何かを話したり教えたりする度に、イオは子供のように純真な瞳で俺の話を聞いていた。 膨大なデータがあるにせよ、百聞は一見にしかず、実際に五感で感じたものに勝るはずもない。 俺は、イオにこの世界のことを知って欲しいと思う。 無へ色を与えていくように、輪郭だけだったものに肉付けして作り出す、生きることへの喜び。 イオの人生を楽しんでもらいたい。 「じゃあ、さっそく明日、出掛けようか。予報では天気もいいみたいだし」 「どこに行くの?」 「ひみつー」 その日の家事はイオが尋常じゃないスピードで片付けた。しまいにはア然としている俺に早く寝なさいと諭す始末。 鼻歌でも歌いだしそうに目覚まし時計(俺用)をセットするイオを見て、こっちまで嬉しくなった。 明日はいい日になるといい。 眠りにつきそうな頭で、ぼんやりと考える。 今思えば、それまでの穏やかな生活が、俺達の思考回路を…鈍らせていたのかもしれない。 [*前へ][次へ#] [戻る] |