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『糸の切れたマリオネット』






「は………?」




なんだか今ものすごく間抜けな声がした気がする。


恐る恐る背後に視線を向けると、そこには一匹の猫。そしてその猫が怒りをあらわに威嚇しているその先に、おそらく若いだろう男が立っていた。というより、立ち尽くしていたと言った方が適切かもしれない。

男は自分の手をもう片方で包み、何が起きたがわからないといった様子で立ち尽くしていた。

…なんだかこの一人と一匹、かみ合っていない。
猫は今にも飛び掛からんばかりにご機嫌ななめだし、対して男は頭にハテナマークを浮かべて呆けているし、……さてどうしたものか。

とりあえず、一触即発しそうな猫を落ち着かせるべく、二人(?)の間に入ってみる。

「あの…、」

俺が控えめに声をかけると、男はゆっくりとこちらを見た。
そしたら予想外にも、男は今俺の存在に気づいたとでもいうように、ちょっとびっくりしていた。
…俺はこの男のせいで恐怖心を煽られていたというのに、当の本人にはキョトンとされてしまった。拍子抜けだ。なんだか虚しくなってきた。

「誰……?」

…ほら、認識されていなかった。

「えっと…、通りすがりの者デスが…。あの、大丈夫ですか?」

俺は男が庇うようにしている手を目で示しながら問い掛ける。猫はかなりご立腹の様子だし、この状況からいって少し引っ掻かれでもしたんだろう。

男は暫く無言で自分の手と俺とを見比べていたが、そうしてようやく呟かれた言葉は俺の質問の答えとは程遠かった。





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