『糸の切れたマリオネット』
2
「は………?」
なんだか今ものすごく間抜けな声がした気がする。
恐る恐る背後に視線を向けると、そこには一匹の猫。そしてその猫が怒りをあらわに威嚇しているその先に、おそらく若いだろう男が立っていた。というより、立ち尽くしていたと言った方が適切かもしれない。
男は自分の手をもう片方で包み、何が起きたがわからないといった様子で立ち尽くしていた。
…なんだかこの一人と一匹、かみ合っていない。
猫は今にも飛び掛からんばかりにご機嫌ななめだし、対して男は頭にハテナマークを浮かべて呆けているし、……さてどうしたものか。
とりあえず、一触即発しそうな猫を落ち着かせるべく、二人(?)の間に入ってみる。
「あの…、」
俺が控えめに声をかけると、男はゆっくりとこちらを見た。
そしたら予想外にも、男は今俺の存在に気づいたとでもいうように、ちょっとびっくりしていた。
…俺はこの男のせいで恐怖心を煽られていたというのに、当の本人にはキョトンとされてしまった。拍子抜けだ。なんだか虚しくなってきた。
「誰……?」
…ほら、認識されていなかった。
「えっと…、通りすがりの者デスが…。あの、大丈夫ですか?」
俺は男が庇うようにしている手を目で示しながら問い掛ける。猫はかなりご立腹の様子だし、この状況からいって少し引っ掻かれでもしたんだろう。
男は暫く無言で自分の手と俺とを見比べていたが、そうしてようやく呟かれた言葉は俺の質問の答えとは程遠かった。
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